緑黄色野菜に含まれる<β-カロテン>。夢の健康食品と謳われるもまさかの結果に米国では投与実験が中止に。専門家「抗酸化能が十分発揮される国はそもそもの栄養状態が…」
「健診で指摘された異常値を健康食品で下げよう」「ダイエット食品で楽に痩せよう」など、健康食品を生活に取り入れる人が幅広い世代で増加しています。しかし2024年3月、サプリメントを摂取した消費者に健康被害が多数発生し、大きな問題となりました。そのようななか「実は、機能性や安全性について何の保証もない健康食品が多く販売され、健康被害の大半はこれらの製品で発生している」と指摘するのは、一般社団法人日本食品安全協会代表理事の長村洋一さんです。そこで今回は、長村さんの著書『健康食品で死んではいけない』より一部引用、再編集してお届けします。 【図】緑黄色野菜に含まれるβ-カロテンの働き * * * * * * * ◆健康によい緑黄色野菜の成分が真逆の作用に変わる 健康食品の安全性について考えるとき、私にとっても大きな教訓となったのが、緑黄色野菜に含まれるβ-カロテンで起きた問題だった。 古くから多くの人が感じていた「野菜が健康によい」というのが正しいことなのか証明するため、まず欧米で、次いで日本やアジアで疫学調査が行われた。 疫学調査とは特定の集団の生活習慣から特定の病気にかかったり、病気を防いだりするような現象を起こす因子の研究や分析を行う学問分野である。 医学、環境科学などの分野で特に広く行われている調査研究で、コンピュータの進歩により大容量のデータ処理が可能となり数々の新しい発見を生んでいる。
◆夢の健康食品として支持を集める その疫学調査から、β-カロテンに大変な有用性のあることが浮かび上がってきた。緑黄色野菜を多く摂取する人たちに、種々のがんや心筋梗塞の危険性が低いことが証明された。緑黄色野菜の抗がん作用の共通因子はβ-カロテンであった。 そこから世界中で、β-カロテンを多く含む食品によるさまざまな疾患から体を守る予防的効果を調べる動物実験やヒトへの投与実験が行われ、素晴らしい成果が得られていった。 たとえばヒトが摂取したβ-カロテンが、生体内で病気の根源となる活性酸素の発生や過酸化障害を防ぎ、遺伝子(DNA)や悪玉コレステロールと呼ばれるLDLの酸化を防ぐことが明らかになった。 これらの現象は、がん化や動脈硬化、老化を防ぐことを示唆する。さらに動物実験では、予想どおり発がんを抑え、動脈硬化を防ぐ結果となった。 実は同じように病気を防ぐビタミンとして、ビタミンAがβ-カロテン以前に知られていた。そこで健康食品として販売されたが、たくさんとりすぎた人たちにビタミンA過剰症という障害が発生してしまった。 ところがβ-カロテンは、体内でビタミンAに体が必要とする分だけ変換される。どれだけ摂取してもビタミンA過剰にならないということがわかっていた。したがって1980年代には、β-カロテンが夢の健康食品になると考える学者がたくさんいた。 当時、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)に在籍していた私は、仲のよかったβ-カロテンの疫学研究における日本の第一人者である公衆衛生学の伊藤宜則教授から、実際こうした話を聞かされていた。 私も、β-カロテンはやがて素晴らしい健康食品として世の中に出るに違いないと考えていた。’80年代の終わり頃には研究者によるβ-カロテン礼賛の本まで出版されている。
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