「つながらない」と言われたドコモ、汚名払拭できたのか--新社長就任から半年振り返り
2023年に大都市部を中心として大幅な通信品質低下を起こし、ユーザーから強い批判を浴びることとなったNTTドコモ。新たな社長として前田義晃氏が就任し、新体制となったNTTドコモのネットワークはその後、品質改善が進んだのだろうか。ネットワークを中心としたNTTドコモの2024年を振り返ってみたい。 新社長が真っ先に打ち出した通信品質重視の姿勢 2023年、携帯電話業界を大きく揺るがすトピックの1つとなったのが、NTTドコモの著しい通信品質低下であることに異論の余地はないだろう。コロナ禍を経て動画視聴などの需要が高まり、通信トラフィックが急増したことを読み切れず、大都市圏を中心として同社の通信品質が著しく低下。SNSなどで「つながらない」との声が急増し、大きな批判にさらされることとなった。 ネットワーク品質対策に迫られたNTTドコモは急遽、300億円を先行投資し、全国2000箇所のエリアや鉄道路線などの集中対策を実施することとなった。その結果として、一時の非常につながりが悪い状況からいくらか改善は進んだものの、2024年に入っても依然「つながりにくい」といった声は多く挙がっていた。 では2024年、そのネットワーク品質向上に向けてNTTドコモはどのような取り組みを進めたのだろうか。その取り組みを確認する上で重要なポイントとなるのが、2024年に同社の体制そのものが大きく変わったこと。2024年6月14日に前任の井伊基之氏から、前田義晃氏へと社長が交代したのだ。 前田氏はNTTドコモとして初となる、NTTグループの生え抜きではない社長として注目された。その前田氏が社長に起用されたのは、コンテンツや金融などの「スマートライフ領域」の事業を長年手掛けてきたためと見られている。市場飽和で主力のモバイル通信で売り上げを伸ばすのが難しくなっているだけに、成長しているスマートライフ領域を強化し、いわゆる「経済圏」ビジネスを拡大するための人事という見方が多い。 それだけに一層、前田氏が強みを持たないネットワークの通信品質改善をどうしていくのかが注目されたのだが、前田氏は就任会見で「お客さま起点の事業運営」を打ち出し、そのために特に注力して取り組むとしたのが通信サービスの品質向上だったことに驚きもあった。 実際に前田氏は、これまでNTTドコモが手薄だったSNS上の声を拾うことや、アプリなどの利用データを活用して改善が必要な場所を早期に検出、迅速に品質対策を進めることを打ち出した。その上で、英Opensignalのモバイルネットワーク体感の評価指標の「一貫した品質」部門で、2024年度末までに1位を獲得することを目指すなど、早期のネットワーク品質改善を明確に打ち出したのである。 通信品質改善の具体策は その具体的な方策として示されているのは、1つに5G向けに割り当てられた「サブ6」と呼ばれる、大容量通信が可能な周波数帯のエリア拡大だ。NTTドコモはサブ6の周波数帯として、他社にも割り当てられている3.7GHz帯に加え、もう1つ4.5GHz帯も割り当てられている。4.5GHz帯は3.7GHz帯と違って衛星通信との電波干渉の影響を受けづらかったことから、サブ6の活用では他社より有利な立場にあった。 それゆえ同社は「瞬速5G」とうたい、サブ6の周波数帯を面的に広げることに重点を置いたエリア設計を進めてきたため、高速大容量通信が可能なエリア自体は他社より広い。だがサブ6の周波数帯は、1GHz以下のいわゆるプラチナバンドと比べると遠くに飛びにくい。単にエリアを広げるだけでは効果が弱く、基地局を密に設置しエリア間の隙間を作らないことが、ユーザーの体感速度を向上させる上では重要になってくる。 そこでNTTドコモは、主要な都市部や鉄道導線を中心としてサブ6の基地局を密に設置し、ネットワークに厚みを持たせることを重視したエリア設計へと方針を切り替えている。それによって2024年11月7日の決算説明会の時点では、主要都市の中心部の3分の2以上で100Mbps以上のスループットを達成したとしている。 そしてもう1つ大きな注目を集めたのが、大容量通信に強いとされるアンテナ技術「Massive MIMO」の導入を打ち出したことだ。NTTドコモはこれまで、Massive MIMOに対応する無線機を導入してこなかったが、それは同社が調達する国内通信機器ベンダーの一部が、Massive MIMOに対応した無線機を持っていなかったことが影響していたようだ。 Massive MIMOの未導入が大容量通信を求める顧客ニーズへの対応遅れにつながっているとの指摘が多くかったこともあり、前田氏は2024年9月30日の「NTT IR DAY」で海外の通信機器ベンダーから装置を調達、国内ベンダーの装置と一部置き換えることを打ち出している。実際に同社は既に、大規模イベント時のトラフィック対策などに用いられる移動基地局車にMassive MIMO対応の無線機を導入、京都競馬場などで稼働させた実績がある。従来の無線機と比べおよそ2倍の性能向上を確認できたとしている。 課題と今後の展望 なぜ前田氏がネットワーク通信品質改善重視の姿勢を強めているのか。そこには2024年、もう1つ話題となった「ahamo」の実質値下げと共通した要素があると、筆者は見ている。 オンライン専用プランのahamoは、2024年10月から月額料金は据え置きのままで通信量を20GBから30GBに増量。これが大きなインパクトを与え競合他社が追随する動きが相次いだ。 NTTドコモは携帯大手3社の中で唯一、現在も政府主導による料金引き下げの影響から脱することができずにいる。にもかかわらず実質値下げに踏み切ったのは、ahamoの顧客を維持するためだと前田氏は説明していた。通信量が増える傾向にある中で、ahamoの20GBという通信量に不足感が生じ解約率が高まっていることから、通信量を30GBに増やして解約を減らすことが目的だったようだ。 なぜ通信料収入の改善よりも解約を減らすことに重点を置く施策を打つのかといえば、そこには前田氏に期待が寄せられている、経済圏ビジネスの拡大が大きく影響してくる。NTTドコモは国内で最も多くの顧客を抱える携帯電話会社だが、一方で長年にわたって他社に顧客を流出させてきた経緯もある。 そして携帯電話サービスの顧客が減ることは、その顧客に向けて提供する金融やコンテンツなどのサービス利用が減ることにつながってくる。携帯電話サービスで収入を伸ばすのが困難な状況にあって、経済圏ビジネスの拡大は今後の成長が見込める領域だけに、その拡大のためにも顧客基盤の維持を重視する向きがNTTグループの中で強まっているのだ。 通信品質も同様で、品質低下はユーザー満足度の低下、ひいては解約が増え顧客が減少する大きな要因となりかねない。顧客基盤を維持するためにも、前田氏の体制では通信品質の改善により重きを置いて取り組むに至ったといえそうだ。 ただ、通信品質が改善し、なおかつユーザーに評価されるまでの道のりはそう容易ではない。そもそもNTTドコモの通信品質が競合より落ちたとされる要因は、1つに冒頭で触れた通り通信量増加の兆候を見逃したことが挙げられるのだが、もう1つの要因として5Gのネットワーク設計思想が競合と異なっていたことも挙げられている。 現状は他社を追従している途上 NTTドコモはサブ6で有利な周波数を獲得したこともあって、4Gから5Gに転用した周波数帯の活用に長らく消極的だった。だが現在の状況を見れば、4G転用周波数帯を積極活用したKDDIやソフトバンクの方がネットワーク品質で高い評価を得ており、隙間が生じやすいサブ6のエリア拡大に注力したNTTドコモは、その隙間で通信品質が大きく落ちることから評価を落としている部分も大きい。前田氏は4G転用周波数帯の積極活用に舵を切る姿勢を見せているが、かなり先を行く他社をどこまで追随できるかは未知数だ。 また、Massive MIMOに関しても、導入を打ち出したとはいえ実際の基地局への導入が順調に進むかは未知数な部分がある。Massive MIMOは多数のアンテナ素子を活用した技術なのでアンテナサイズが大きくなりやすい。かなり小型化が進んではいるが、とはいえまだ一定のサイズ感はある。 そして日本では、4G時代に非常に多くの基地局設備が設置されていることもあり、サイズが大きいMassive MIMOのアンテナを追加するのが容易ではない所も多いようだ。日本は自然災害が多いだけに、重くて大きい設備はビルのオーナーなどから設置を認められないケースも少なからずあることから、一気に入れ替えるのは困難では、との声も聞かれる。 そして何より、一度「つながりにくい」という評価が付いてしまうと、他社と変わらない通信品質を実現しただけではユーザーから評価されないというジレンマもある。地道な品質改善に取り組むのはもちろんなのだが、同時に従来のイメージを変える施策も求められる所だろう。