Jリーグ、英プレミア売上高の7分の1 130兆円市場逃すな
あまり知られていないが、スポーツは世界屈指の巨大成長産業だ。欧米系調査会社のビジネス・リサーチ・カンパニーによれば、2023年の世界のスポーツ産業市場規模は4849億ドル(約73兆円)で、5000億ドル前後とされる半導体やスマートフォン、再生可能エネルギーに匹敵する。今後10年間で1.8倍の8626億ドル(約129兆円)に成長する見込みだ。 【関連画像】世界のスポーツ産業の市場規模予測 インターネット配信の普及でスポーツを視聴する人が増加。「スポーツツーリズム」も広まり、周辺産業を巻き込んで成長している。パリオリンピックの観戦チケットは1000万枚のうち950万枚超が売れ、過去最多となった。 ●Jリーグ、英プレミアの背中遠く だが、「日本は成長の波に乗り遅れた」と多くのスポーツビジネス関係者が悔しさをあらわにする。国内市場規模は、10年ほど停滞したままだ。特に引き合いに出されるのが、1991年設立の「Jリーグ」だ。 2023年度のJリーグ所属クラブ合計の売上高は過去最高の1517億円を記録している。だが、ほぼ同時期の1992年に設立された英国の「プレミアリーグ」と比べるとかすむ。90年代、両リーグの売上高はほぼ同等だったが、2022~23年シーズンのプレミアリーグの売上高は60億5800万ポンド(約1兆1500億円)。7倍以上の差を付けられた。
1985年、英リバプールFCのサポーターによる暴動で39人が死亡する「ヘイゼルの悲劇」が起きた。イングランドのクラブチームは5年間、欧州での国際大会から締め出される。抜本的改革を迫られた英国サッカー界はプレミアリーグを創設。国際試合が解禁されると、近隣の欧州諸国との選手交流が活発化し、英国は再び競争力を取り戻す。デビッド・ベッカム選手のようなスターも登場した。 日本との格差が大きく開いた理由はいくつも挙げられる。地理的・文化的背景が大きく異なり、単純比較は難しい。それでもスポーツ関係者らが嘆くのは、自力で克服できたはずの大きな要因が国内にあるからだ。日本のスポーツ全体を覆う「経営意識」の希薄さだ。 EYストラテジー・アンド・コンサルティングの岡田明パートナーは「スポーツをコンテンツとして捉えず体育の一環として扱ってきた。産業として育てるビジョンを描けていなかった」と分析する。 自治体主導で整備したスタジアムや体育館は、赤字体質が当たり前。クラブの多くは赤字が出てもオーナー企業の補塡に頼る。 そうしている間に、海外では様々なスポーツリーグが自立的で多様な収入源を確立している。プレミアリーグ飛躍のきっかけも、無料の地上波から有料放送にシフトし、巨額の放映権料を得るようになったことだった。 そんな日本のスポーツ産業で、ようやく反攻が始まろうとしている。リーグや競技団体などの経営力強化やスタジアムの収益性改革、他産業との融合による新市場の創出などが全国で進み、多くの企業がオーナーやスポンサーとして参入し始めている。 変化の象徴がバスケットボールだ。男子バスケ日本代表は、約50年ぶりに自力でパリオリンピックに出場。銀メダルのフランスを、あと一歩まで追い詰めた。競争力向上の要因には、2016年に創設された「Bリーグ」がある。23~24シーズンの入場者数は約452万人に上り、各地で満員御礼が相次ぐ。 一体何が起きているのか。第2回は「稼ぐ力」を追求した改革に迫る。 (次回に続く)
齋藤 英香、朝香 湧