世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.131「シビアさ極まるMotoGPで王座を獲得したホルヘ・マルティン」
超ハイレベルなマシンを乗りこなす、超ハイレベルなライダーたち
レースは、競技としてはすごくシンプルです。よーいドンでスタートして、誰が1番先にゴールするかを競うだけですからね。駆けっこと何も変わりません(笑)。でも実際は、とても複雑で繊細で、難しい。コースコンディション、マシンセッティング、タイヤコンディション、自分のコンディション、そしてライバルの動向などが絡み合って、100%思い通りになることはありません。 ちょっと話は逸れますが、今のMotoGPのシビアさは、僕が現役時代の比ではないと思います。かつては曖昧だったり、よく分かっていなかったり、ライダーの腕次第だったところが、かなり技術論として確立しています。 ある意味ではF1化しているところがあって、「こうすれば速いから、こう走れ」とか「こうすればタイヤが保たせられるから、こう走れ」とライダーが指示され、その通りに走ることが求められているように感じます。そしてそこから外れると、一気に大外れになってしまう。 特に空力デバイスの影響力はかなり大きいようです。サスペンションやシャシーといったメカニカルなエクイップメントが行き着くところまで行き着いて、今のMotoGPマシンは空力で止めよう、曲がろうとしている。 さらに、車高が変化するライドハイトデバイスのような機構も備えられて、それと空力の兼ね合いはどうなるんだ、とか、もう昭和のライダーにはお手上げです(笑)。でも各メーカーのファクトリーチームは、そういう超シビアなところまで踏み込んだ開発をしているのが現状です。 昭和のおじさんライダーとしては、つい「2スト500cc時代は……」と言いたくなってしまうのですが、実際、今のMotoGPマシンは技術的なレベルが極めて高い分、かつての2スト500ccマシンに比べるとライダーの腕でカバーできる領域が減っているのは確かでしょう。 これは、「今のMotoGPライダーの腕が下がっている」ということではありません。まったく逆。超ハイレベルなマシンを、超シビアな指示の通りに乗りこなさなくてはいけないのですから、ライダーのレベルは恐ろしく高くなっている。今のMotoGPライダーのスキルなら、2スト500ccマシンを難なく乗りこなせると思います。 でも、あまりにシビアゆえに、ライダーの凄さが見えにくくなっているんです。そこはちょっと残念に感じますが、エンジニアリングの進歩を止めてはプロトタイプの意味もなくなってしまいますし、バランス取りが難しいところですよね……。