新しい文化のつくりかた:異彩作家とヘラルボニーの挑戦
「調和が取れていないことが調和になる」ヘラルボニーが目指すのは、そんな社会の実現だ。障害のある「異彩作家」たちが生み出すアートを軸にしたビジネスが世界に拡大すればするほど、そこへの近道となる。彼らの歩みは「新しい文化」の起爆剤となるか。 世界を動かすカルチャープレナーたち パレスホテル東京で開かれた国際アートアワード「HERALBONY Art Prize 2024」授賞式。世界28の国と地域、障害のある作家924人からの応募があり、作品総数1973点からグランプリや各賞が選ばれた。会場では、作家や協賛企業の経営者らが混在して円卓に着席。ある卓では経営者が誇らしくスーツに身を包む作家にお酌をし、ある卓ではじっとしていられない作家が席を立って歩き回る。フォーマルな席だが、すべてを包摂する、いい意味での緩さがある授賞式だった。 このアートプライズを主催したのが、双子の松田崇弥・文登兄弟が創業したヘラルボニーだ。ヘラルボニーは、障害がある作家が制作するアート作品をデータ化してIP事業を展開している。IPはオリジナル商品のデザインに使うほか、一般企業にも提供。例えばJALは機内食の紙帯や機内アメニティ、丸井グループはクレジットカードのデザインに使っている。 実は障害がある人のアートは裾野が広い。国内には、アートに特化した福祉施設(就労継続支援B型や生活介護事業所)が200カ所以上ある。ただ、障害がある作家なら誰でもヘラルボニーと契約できるわけではない。現時点で契約作家は241人。松田崇弥はその理由をこう明かす。 「知的障害のある作家に、半年後に個展をやるから新作10点を描いてと依頼しても難しい。作家自身が作品を世間に知ってもらうためにSNSを運用したり取材を受けるのもハードルが高い。僕らのIP事業は、素晴らしい作品を描く作家が資本主義経済に参画する可能性を高めるにはどうすればいいのかという問題意識が出発点。おのずと実力のある作家が対象になります」 ヘラルボニーには週に4~5件、作家本人や関係者からアプローチがある。従来は社員が一件ずつ丁寧にやり取りをして、現代アートの文脈で評価できる作家だけと契約していた。キュレーションの責任者は、金沢21世紀美術館チーフ・キュレーターの黒澤浩美。まさにプロの目で厳選された作家たちだ。 ただ、アプローチの数がさらに増えれば、オペレーションの問題で質の高いキュレーションを維持できなくなるおそれがある。実は冒頭に紹介した「HERALBONY Art Prize 2024」の目的のひとつはキュレーション。作品を集中的に集め、東京藝術大学学長の日比野克彦など複数の専門家の目を入れることで、実力ある作家との出会いを安定的な仕組みにしようとした。 なかでも出会いたかったのは海外の作家たちだ。ヘラルボニーの存在は国内の福祉関係者の間でよく知られている。しかし海外では無名に近い。海外から応募してもらうために、考えられるあらゆることをやった。