物価高騰で倒産増の給食業界、給食事業経営者3名が語る課題と未来への意思
〈「安い給食」脱却に向けて、伝えること、結束すること、イメージを高めること〉
価格転嫁について、野々村社長は「赤字では運営できない。食材費、人件費、人材募集費、光熱費と、あらゆるものの価格が上がる中、給食の価格はそのまま、とはいかない。業界全体で、正当な価格をお支払いいただけない方は、厳しい言い方だがお客様ではないという考え方を定着させる必要があるのではないか。私たちも、顧客、取引先企業、私たちの3社が良い形で仕事ができる“三方良し”を実現しよう。それがビジネスのあるべき姿である。より良い食事サービスを提供するからこそ、より良い対価を払っていただける。その結果、働いていただく皆さんにしっかりと働いてもらえる。サービスを利用するお客様にも喜ばれる。そういう関係がなければいけない。海外では、マクドナルドのランチが3500円するところもあるそうだ。日本のランチは最近では1000円代がざらにある。しかし、社員食堂はというと、500円を超えると高いと言われる。なぜ、社員食堂は500円で高いのか。給食業界全体の問題としてもっと訴えていきたい」と、安い給食価格の問題を訴えた。 続けて、山本社長は「今回の給食の提供停止問題の影響もあり、顧客から『適正な人件費の賃上げに向けて、費用の見直しを伝えてください』と言っていただいたことがあった。信頼関係があれば、しっかり伝えられる。お客様に正々堂々と伝えていくことが大事だ」と話しつつ、「お客様がすべて、値上げをそのまま受け入れてもらえるわけではない。極論を言えば、適正な価格をお支払いいただけるお客様に対して人を配置し特別なオーダーに応える世界と、ある程度の価格しかいただけなければ、完調品や人手をかけない効率的なサービスを提供する世界のいずれか、給食の二極化が起こると思う。顧客の求めに応じて、松竹梅の提案を用意する必要もあるのではないか」と分析した。 岩見専務は「正直言えば、給食の仕事は薄利多売である。利益率が上がらない中で、賃金アップや物価高騰によるコスト上昇に苦しんでおり、赤字運営の一歩手前である。このまま契約金額が上がらなければ、人手不足を解消する方法である賃金アップもできないのではないかと危惧している」と語り、セミナーに来場した給食関係者に「価格破壊や価格競争はもうやめませんか。私たちは競合他社ではあるが、しっかりと協力して、価格転嫁できる体制づくりを業界として行動を起こしていきませんか」と協力を求めた。 また、2023年10月、日本給食サービス協会の馬渕祥正副会長(馬渕商事社長)が、岸田文雄総理と車座対話を行い、学校給食の安定供給に向けて、入札方式でも最低落札価格を設定することやプロポーザル方式の実施など、新しい契約のあり方について要望したことを解説。その上で、「この動きは各自治体に少しずつ広まってきていると感じる。今後も一社だけでできなければ、業界団体で力を結集し、協力して声を上げていきたい」と語った。 コーディネーターを務める大髙社長は、3者の話を聞いて、「私たちが共通してやらなくてはいけないことは、今までの給食ビジネスからの脱却だと思う。給食は安くてお買い得という価値観を変えよう。ちゃんと適正価格をお求めして、お客様を選ばせていただく。そのためにも、適正な価値を創造する必要がある。その意味では、自社努力の上に、給食業界の認知向上、良いイメージづくり、ブランド化が今後のカギになるのではないか」とまとめた。