「生成AI活用は挑戦する意欲のある人材に予算と権限を委譲して推進せよ」（PwCコンサルティング 執行役員 パートナーの三善心平氏） 　PwCコンサルティングは先頃、同社がこのほどまとめた調査レポート「生成AIに関する実態調査2024 春 米国との比較」について記者説明会を開いた。三善氏の冒頭の発言はその会見で、生成AI活用に向けて日本企業に求められる取り組みとして挙げたものである。 　調査レポートの内容については発表資料をご覧いただくとして、ここでは三善氏の発言に注目したい。 　同氏は生成AIの活用に当たって日本企業に求められる変化について、「生成AI活用から中長期的な成長や競争優位性を確保するためには、従来のアプローチでは不十分であり、変化が必要だ」と述べた上で、そのポイントについて次の3つを挙げた。 　1つ目は、挑戦する意欲のある人材に予算と権限を委譲して推進することだ。これについて同氏は、「イノベーティブなことへの意欲やパイオニアになることをためらわずに楽しめる気質や能力がある人材を推進責任者に据えることで、事例主義からの脱却を図る。また、責任者に据えるだけでなく権限や予算も委譲し、失敗による減点方式の評価制度の刷新を図るといった経営からのサポートも必要不可欠だ」と説明した。冒頭の発言は、この1つ目のポイントを取り上げたものである。 　2つ目は、適切なリスク分析と具体的な対策を検討することだ。これについては、「AIにおいて完璧な精度は存在しないことを理解し、精度を追い求めすぎるあまり活用が進まないことによる機会損失をリスクと捉えることが大事だ。また、リスクが少ないユースケースに閉じていては大きなインパクトを生み出せない。具体策を講じた上で新しいサービスや新しい顧客体験を実現すべきだ」と指摘した。 　3つ目は、生成AI活用によりマネジメントを高付加価値業務へ移行させることだ。これについては、「企業のマネジメント層が計数や人員の管理業務に多くの工数を割いている状況では、短期的な企業価値の維持に終始してしまいがちだ。本来、マネジメント層がリソースを割くべき戦略立案などの高付加価値業務にシフトするために、生成AIを積極的に活用することでマネジメントが企業変革やイノベーションに本気で向き合い、中長期的な価値創出の実現を図ることができる」と説明した。 　さらに三善氏は、生成AIをはじめとしたテクノロジーによるイノベーション創出を阻害する日本の課題として、図2に示すように「官公庁、公共機関のデジタル化の遅れ」「国家・企業としてのIT投資の低さ」「IT人材の不足（流出）」「保守的な文化」「技術とITインフラの弱み」の5つを挙げた。 　5つとも従来から指摘されてきた課題ばかりだが、長年にわたってこれらがさまざまな形で絡み合っているだけに事態は深刻だ。まずはその強い危機感を共有するところから始めなければならない。生成AIの活用をその大きなきっかけにしたいものである。