高齢の飼い主がペットの世話をできなくなったら――人と動物が最後まで幸せに暮らすために準備すべきこと
高橋さんは息子一家と暮らし、朝の散歩は息子の担当だ。午後は息子家族に負担をかけないよう、散歩代行を丹羽さんに依頼している。高橋さんはこう話す。 「いつも犬を飼っていましたから、いない生活は考えられないんです。去年までは自分で散歩に連れていっていたんですけど、腰椎圧迫骨折をして、足腰が弱っちゃって。散歩に行けなくなりました」 「さくらちゃんは私の相棒です」という高橋さん。夜は一緒の布団で寝ている。夢はリハビリをがんばって、もう一度一緒に散歩に行くことだ。 高橋さんの場合、本人が丹羽さんに頼むことができたが、飼い主の子どもが依頼主のケースもある。丹羽さんはこう言う。 「犬の散歩は毎日必要ですし、犬がけがや病気で動物病院にかかることもあり、医療費が必要です。場合によっては子どもに経済的負担がかかる事態を、飼い主さんが想像していないこともありますね」
人間の福祉と動物の福祉を両立させるために
行政とボランティアが連携して問題に取り組んでいる自治体がある。「かわさき高齢者とペットの問題研究会」は、かわさき犬・猫愛護ボランティアの有志が2015年に設立。メンバーには行政書士、介護福祉の関係者、大学教授や研究者など、各方面の専門家がいる。また、行政の職員がアドバイザーとして参画、協働している。研究会の渡辺昭代さんはこう語る。 「愛護ボランティアの活動をするなかで、この数年、高齢者とペットの問題が顕在化してきました。困っているという話があちこちから耳に入るようになったんです。人間の福祉と動物の福祉を両立させるには、愛護活動の当事者、人間の福祉にかかわる人、包括支援センター、行政などが一体にならないと物事が進みません。ケアマネさんやヘルパーさんがペットの問題に気づくことも多く、包括支援センターの方たちは、私たちより早く情報をつかめる。その情報をお互いに共有して、問題解決のために取り組んでいます」
高齢者のペットを保護する際に障壁となるのは、ペットが法的に「個人の財産」とみなされる点だ。急な入院や死亡など、飼い主の不在で動物が弱っていても、本人か身内の同意がなければ手を出すことができない。認知症の場合も、本人が「この子とは別れない」と主張すると、たとえ飼育放棄状態でも救うことが難しい。 そこで「かわさき高齢者とペットの問題研究会」では、不測の事態に備え、飼い主の意思表示の契約書にもなるリーフレット「残されたペットのためにあなたができること」を作成した。法的効力はないものの、飼い主が最後まで飼育責任を持つように啓発している。 「高齢化は進み、独居の方も増えています。孤独から動物を求める人も多く、問題は深刻化していくでしょう。高齢者がどう社会と結びついていくのか、孤独にしないためにはどうしたらいいのか、社会全体として考えていかなければいけないと思います」