<クマ研究の最前線>ツキノワグマのフンを探して丹波の山をめぐる
庭へ入らせてもらうと、柿の木があった。三國さんが木の幹を確認すると、そこにはクマの爪痕があった。「クマが出てますね。気をつけてください」と話すと、女性は「あぁ」と深く頷き、「主人にも伝えておきます。ありがとうございます」と感謝の念を伝えていた。 この日、三國さんの探している場所にフンは落ちていなかった。 それにしても、道中には枯れ葉に落ち葉、茶色のものがたくさん落ちていて、ここからフンを見つけ出すのは、簡単ではない。 「でも、慣れてくると、『あっ、ここだ』と分かるようになるんです」
クマは毎年新しい発見を与えてくれる
三國さんはこうしたフィールドワークを週に3回ほど、1日がかりで行っている。移動に伴うガソリン代も自己負担で、森林動物研究センターでのアルバイトや、時には親の援助でやりくりしているという。それでも、三國さんから悲壮感はまったく感じられない。 「クマの行動は毎年違うので、いつも新しい発見を与えてくれます。山からクマを出てこなくするために今後、日本の山をどうしていくべきかを考えていきたいですね」 三國さんは山を歩いている際、クマに遭遇したこともある。「目が合ってしばらくこう着状態になりましたが、クマの方が逃げました。獣臭と言いますが、クマからはちょっと甘い香りがします」。だから、クマよけスプレーは必須アイテムとなる。この日も三國さんの腰には、赤色のスプレー缶が装着されていた。 「これが結構高価で、1本1万円前後します。でも、効果は抜群で、ちょっと皮膚に当たったりするだけでも激しい痛みに襲われます」 クマが食べる野草を何気なく口にしたこともある。「クマが食べられるものは自分でも食べてみなければと思ったのですが、口に入れた瞬間、『しまった』と。毒でしばらく口の中が腫れたままで大変な思いをしたこともあります」と笑う。 まさに、我々一般人が想像する研究者のイメージ通り、クマに〝一途な青年〟であった。
友森敏雄