「面倒なことは考えずインデックスファンドを買え」投資家や大富豪に話を聞き、膨大な本を読んで到達した“投資の正解”とは(レビュー)
カナダ生まれの敏腕経済記者による、世界的なベストセラー本が日本でも発売された。 この『年1時間で億になる投資の正解』(ニコラ・ベルべ著、土方奈美訳)で語られているのは、年間たった1時間の運用チェックで資産を億単位に増やすという、“投資の正解”だ。 【目次】『年1時間で資産が億になる投資の正解』って? 内容を目次で見る 普通の人なら「そんなうまい話があるものか」と疑念を抱くところだが、ベストセラー作家の橘玲氏もその“正解”に深く頷いている。 金融業界や投資をテーマにした小説からビジネス書まで手がける橘氏だが、実は30代半ばに「最速で億万長者になる」ことを目指して投資し、失敗した苦い経験があるという。それから、橘氏が辿り着いた「コスパ」も「タイパ」も良い結論が、同書で語られる“正解”と同じだったというのだ。 “投資の正解”とは、いったいどんなものなのか。橘氏の評に耳を傾けてみよう――。 *** 2010年、33歳のニコラ・ベルベは、株式市場が暴落すると確信し、アパートを売却して得た一万ドルを、株価が下落したら大きな利益が出るプットオプションにすべて投じた。だが待ち望んでいた暴落は起きず、数カ月で元手は数百ドルに減ってしまった。 この失敗からベルベは、金融市場について徹底的に学ぶことを決意し、金融や投資に関する本を膨大な時間をかけて読むだけでなく、成功した投資家や大富豪にもインタビューして、ひとつの結論に達した。ほとんどのひとは、面倒なことを考えずに、S&P500などの株価指数に連動するインデックスファンドを買えばいいのだ。 『年1時間で億になる投資の正解』に出てくるこのエピソードに親近感があるのは、私自身がその10年ほど前に、まったく同じ体験をしているからだ。 私が金融市場に興味をもったのは30代半ばで、20世紀末の株式市場は空前のインターネット・バブルに沸いていた。先物・オプションなどのデリバティブを知ったばかりの私は、シカゴのブローカーに口座を開き、ナスダック市場の株価に連動する先物を購入することで、最速で億万長者になることを真剣に考えていた。 しかしポジションが積みあがるにつれ、西暦2000年を迎えたとたんに世界中のコンピュータがクラッシュして大混乱が起きるという、不気味な予言が夢にまで出てくるようになった。けっきょく、そのプレッシャーに耐えきれず、すべて売却してしまった(年明けにネットバブルは崩壊したので、そのまま投資を続けていたら破産していただろう)。 この苦い体験のあと、自分の愚かさを反省した私は、世界の株式市場に連動するインデックスファンドをなにも考えずに積み立てるのが、「コスパ」も「タイパ」もいいと考えるようになった。 ベルベと私が同じ結論に達したのは、べつに不思議でもなんでもない。経済学的に最適な投資法は、1960年代に数学的に証明されている。ただし、それが広く受け入れられるようになるまでに半世紀を要した。 NISAが拡充されたことで、運用益にも売却益にも課税されないという、きわめて有利な条件で株式市場に積み立て投資ができるようになった。この「特権」を活用すれば、本書に書かれた“最強の投資法”で億を手にするのは、夢や願望ではなく、きわめて現実的な目標になるだろう。 ***