長生き怖い…低所得層転落、移民送還で介護士不足。米国理想の老後はどこへ
医療の発達による社会の高齢化は、とりわけ先進国間に共通の問題でもあります。米国でも1946年~64年に生まれたベイビーブーマー世代が、次々に65歳の壁を超える時代に突入しており、現在65歳以上の人口は4600万人ほど。2060年には2倍以上の9800万人となり、総人口の24%近くを占めるようになると言われています(Population Reference Bureau調べ)。 平均寿命も1950年の68歳から2013年には79歳に伸びました。そこで今回は、先進国の多分にもれず高齢化社会の道を突き進んでいる米国の老後のあり方について、老人ホーム事情などを中心にまとめます。 ニューヨーク・ブルックリン在住のライター金子毎子さんの報告です。
助けて!起き上がれない!
アメリカ人ならたいがい知っているある有名なCMがあります。床に倒れた高齢者が「I’ve fallen and I can’t get up!」と24時間体制のオペーレーターに助けを求め、救急発信装置「Life Alert」を首にかけていたおかげで救急車を呼べて助かったね、というもの。昔からやっているのでなんとなく映像が古いのと、お年寄りの悲壮な表情やしぐさ、おなじみのキャッチフレーズなどが相まってインパクト大のCMです。不謹慎ではありますがこれをネタにしたジョークは数知れず。子どもがふざけて真似たりもします。 でも、このサービスが米国における老後のあり方を象徴しているともいえるのです。サイトにいけば、全国各地から87歳、92歳といった高齢者たちの「これがなかったら命はなかった。恩人だ」的お礼の証言が日々アップデートされています。 「老人ホームを回避しよう!」というページもあり、「ある調査でLife Alertがあれば6年間も長く自宅で過ごせることがわかった」と謳っています。つまり、1日でも長く老後を自宅で過ごすことが目標なのです。もちろんこれはマーケティング戦略にすぎませんが、独立と自由を理想とする文化的背景がなかったら、売り文句にさえなりませんよね。 もっともヒスパニック系やアジア系など、個人よりも家族の単位を重んじる文化を背景にした人々の割合もどんどん増えている多様な移民国家ですから、「これが理想とされる老後のあり方だ」という風に文化論を一括りで語ることはますますできなくなってきているのが、今日の米国の姿ではあるのですが……。実際2014年から60年の間に、65歳以上の白人の割合は78.3%から54.6%まで減少するそうです。