ジョージ・オーウェルの名言「一杯の濃い紅茶は…」【本と名言365】
これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。ビック・ブラザーが支配する全体主義国家を描いたディストピアSF小説『一九八四年』の生みの親で、ルポルタージュの作品も手掛けた作家ジョージ・オーウェル。その作風から政治的な側面が強調されがちですが、衣食住や文化についての小文も数多く残しています。 【フォトギャラリーを見る】 一杯の濃い紅茶は二十杯のうすい紅茶にまさるというのが、わたしの持論である。 イギリスといえば紅茶。この国で育った作家ジョージ・オーウェルも愛飲者のひとりだ。それも熱烈なこだわりを持っていた。戦後直後、1946年にロンドンの日刊紙『イブニング・スタンダード』に寄せた短いコラム「一杯のおいしい紅茶」にはこう書いている。「完全な紅茶のいれかたについては、わたし自身の処方をざっと考えただけでも、すくなくとも十一項目は譲れない点がある」。 茶葉はインド産かセイロン産で、ポットは陶磁器で(当然、事前に温めておかなければならない)、カップは浅く平たいものではなく円筒形のもので......といった調子で11項目が続く。紅茶とミルクは紅茶を先に入れるべし、砂糖は入れるべからず(ロシア式は入れる)と、細かい好みまでぬかりなく力説。そんななか、戦後という配給時代を反映する一節も。「一杯の濃い紅茶は二十杯のうすい紅茶にまさるというのが、わたしの持論である。」 年齢を重ねるほどますます濃いのが好きになるということは、老齢年金受給者の配給量に割増があることでも証明される、とは時勢をも感じさせる、オーウェルらしい紅茶の話だ。 その「らしさ」は半年後に発表されたエッセイ「なぜ書くか」に明確に綴られている。作家がものを書く動機は4つ「純然たるエゴイズム」「美への情熱」「歴史的衝動」「政治的目的」なのだと。時代を目撃し、書き残してきた作家の姿勢は紅茶に対しても変わらなかったのだ。