毎年83万世帯で発生するアタマジラミ、効果的な予防法と駆除法は、どうやって移るのか
新学期は感染が広まるシーズン、衛生状態は関係なし
新学期が始まり、子どもたちが学校や幼稚園に戻ると、ある小さな生きものにはビュッフェを楽しむまたとない機会が訪れる。その生きものとは、アタマジラミというゴマ粒大の吸血昆虫だ。 ギャラリー:驚き!電子顕微鏡で見た昆虫、寄生虫 写真18点 保護者にとっては残念なことだが、学校が始まると、アタマジラミ症の発生も増える。国立感染症研究所の調査によると、日本では毎年83万世帯で発生していると推定されている。米疾病対策センター(CDC)は、米国では毎年、3~11歳の子どもたち600万~1200万人がかかると見積もっている。 アタマジラミは寄生虫の中では比較的良性だが、不快感やかゆみ、皮膚をかいてできた傷への二次感染の原因になり、極端なケースでは、虫に関連した強い恐れや妄想を引き起こすこともある。 長年のデータと数え切れないほどの症例があるにもかかわらず、私たちはアタマジラミを根絶できていない。私たちとシラミの関係や寄生された場合の対処法について、公衆衛生や進化生物学などの専門家から話を聞いた。
シラミとはいったい何者で、どのように広がるのか?
人間に寄生するヒトジラミは最も古くから知られている寄生虫の一つで、人類とともに進化し、その行動を私たちに合わせて洗練させてきた。「宿主と寄生虫として、何百万年もこの旅が続いています」と、哺乳類と寄生虫の遺伝学を専門とする米フロリダ大学のデイビッド・リード氏は話す。 リード氏によれば、それはかぎ爪の大きさにも表れているという。アタマジラミのかぎ爪は人間の毛髪をつかんでよじ登るのに最適化されている。「彼らは私たちと結び付いており、ヒトに寄生するとうまくいくように進化しています」 約17万年前、現生人類が衣服を身に着けるようになると、ヒトジラミはアタマジラミとコロモジラミの2種類に分かれた。それぞれ亜種として独立しており、交雑したり繁殖したりすることはない。 コロモジラミは衣服に存在するが、アタマジラミはヒトの頭部のみに寄生し、宿主に依存して生きる。アタマジラミは餌として私たちの血液を必要とする。餌を食べて卵を産むために、一生のほとんどを頭皮のすぐそばで過ごす。 シラミは物理的に跳ねることも飛ぶこともできず、翅もない。アタマジラミは事実上、頭同士が接触することでしか感染しないと、米ハーバード大学公衆衛生大学院の公衆衛生昆虫学者リチャード・ポラック氏は話す。「アタマジラミが“空気感染”する唯一の方法は、人間がシラミを拾い上げて投げることです」 では、ヘアブラシや帽子、ヘルメット、ヘッドホンの共用によってアタマジラミがうつるというのは本当だろうか? リード氏によれば、理論的には可能だが、極めてまれだ。アタマジラミはくしなどの無生物を介しては、あまりうつらないことが研究で示されている。たとえヘアブラシがほぼ間髪を入れずに共用されたとしても、「感染につながる可能性は高くないでしょう」と氏は言う。 映画館の座席、カーペット、学校の机などの家具にも同じ理屈が当てはまるとポラック氏は述べている。それでも、CDCは、アタマジラミにさらされたベッド、ソファ、布、ヘアブラシ、衣服を55℃以上の温水で洗うか、2週間隔離して保管することを推奨している。 アタマジラミは年齢や衛生状態に関係なく、誰でも寄生される可能性はある。しかし、最も寄生されやすいのは、互いに近い距離で過ごす学齢期の子どもたちだ。 また、米カリフォルニア州公衆衛生局によれば、アタマジラミはコロモジラミと異なり、健康を脅かすというより迷惑な存在だ。アタマジラミは、かきすぎて開いた傷口に細菌が入り込むと、局所的な感染を引き起こすことはあるが、虫そのものが病気を広げたり、ヒトの病原体を媒介したりすることはないと同局は説明している。 一方、コロモジラミは、混雑した不衛生な環境で暮らし、シャワーや清潔な衣服を利用しにくい人によく見られ、チフス、回帰熱、塹壕(ざんごう)熱といった細菌性の病気を媒介する。 アタマジラミへの感染の危険度は、子どもたちを教室から締め出すほどではないと専門家は考えている。CDCは米小児科学会、米学校看護師協会とともに、数十年にわたる方針を撤回し、アタマジラミに寄生された児童や生徒を家に帰すことを推奨しなくなった。具体的には、治療を始めれば、シラミの卵がまだいても、教室に戻ることができる。 日本でも、アタマジラミは学校保健法上の扱いで「通常、出席停止の措置は必要ないと考えられる感染症」とされている。 カリフォルニア州公衆衛生局は、アタマジラミは教室での感染率が低いだけでなく、「子どもを学校から排除すれば、子どもの情緒的、社会的、学業的な幸福に悪影響を及ぼし、多くの場合、その子どもは不必要な汚名を着せられると考えられるようになった」としている。