中高年の観客で大賑わい…『劇場版ドクターX』がもたらす稀有な贅沢とは? “お仕事ドラマ”としての魅力を解説&評価レビュー
西田敏行、最後の勇姿
主演が並々ならぬ気持ちで向かい合った作品とあれば、支える共演者も、テレビ朝日の贅を尽くしたようなスペシャルキャストが並ぶ。地上波ではお馴染みの内田有紀、勝村政信、鈴木浩介、遠藤憲一、岸辺一徳らに加えて、かつて作品を盛り上げてスターになった面々の田中圭、今田美桜らも。ほかにも「この数分間に、この人が?」と驚く俳優も登場していた。大物女優の若い頃を演じるといえば、あの人…も。これこそ、長寿番組の功績がなせる技だ。 そして贅沢という表現が合うのかは分からないけれど、西田敏行さんの遺作となってしまった。これも泣ける。彼もまた主役と同じく病気を抱えての撮影だったはず。そんな様子はまったく見せない俳優としての姿勢は、後世につなげたいと切に願う。
お仕事ドラマとしての『ドクターX』
「失敗していいオペなんてひとつもないよ」 神津比呂人(染谷翔太)と手術に関して朝まで会話を続けたシーンのセリフ。ああ、ラストまで名言を増やすとはさすが大門未知子。最終的に何が贅沢なのかといえば、腕は一流、発言はいつまで経っても反抗期のような医師の生い立ちが、やっと、やっと分かることである。加えて、真のドクターXとは誰なのかも…。この魅せ方に脚本家・中園ミホの腕が存分に光っていた。 改めて。患者に対して、どこまでも一心不乱でいる大門未知子を少し羨ましく思った。私は“誰かのために”仕事をしているのだろうかと、疑問が飛ぶ。そして誰かのために仕事をしたいと、改めて自分の仕事を考える。これが私の映画を観た感想だ。 今、これからの生き方に迷う10~20代が多いと聞く。学校で文部省が制作した当たり障りのない資料をプロジェクターで見せているよりも『劇場版ドクターX FINAL』を観せるほうが、何か伝わるものはあるかもしれない。 ちなみに生き方に迷うのは若年齢層だけではなく、中高年も同じ。私が映画館で鑑賞をした日は平日だったけれど、中高年の客で混んでいた。ドラマの痛快さと、大門の強さに興味があったからこそ、わざわざ劇場に足を運んだのだろうと思った。中には前のめりになって鑑賞したり、泣いている客もいた。 皆、連続ドラマをリビングで観ていた視聴者であり、大門の患者だ。劇場を後にする頃は、それぞれの病が治っているように…と小さく願う 。私も大門が患者を救う姿に心を打たれ、自分への疑問を解決して、帰宅した。明日からも誰かの暇つぶしと、気づきになるよう、良き文章を書くのだ。 【著者プロフィール:小林久乃】 出版社勤務後、独立。2019年「結婚してもしなくてもうるわしきかな人生」にて作家デビュー。最新刊は趣味であるドラマオタクの知識をフルに活かした「ベスト・オブ・平成ドラマ!」。現在はエッセイ、コラムの執筆、各メディア構成、編集、プロモーション業などを生業とする、正々堂々の独身。
小林久乃