「106万円の壁」撤廃でも残る問題
企業側が保険料負担を一部肩代わり
一方、厚生労働省は、現在労使で折半している保険料について、企業側がより多く負担できるようにする特例を設ける案を示している。パートなどで働く短時間労働者が厚生年金に加入することのハードルを下げる狙いである。月の給与がおおむね13万円未満の人に対象を絞ったうえで、中小企業の負担が大きくならないように軽減措置も検討する方針だ(コラム「新たな「106万円の壁」対策は企業負担の暫定措置」、2024年11月18日)。 政府は2023年10月20日に「年収の壁・支援強化パッケージ」を開始した。ここでは、年収が106万円を超えて厚生年金、健康保険の保険料の支払いが発生し、手取り収入が減少してしまうパート労働者に対して、手取りが減らないような取り組みを行う企業を対象に、政府が労働者一人当たり最大で50万円の支援を行うものだ。 ただしこれは2年間の時限措置であり、2025年には終わる。そこで、その後継制度とするのが、基本労使で折半する社会保険料を企業がより多く負担することで、労働者の手取りの減少を回避する今回の措置だろう。 今回の措置は、パート労働者の手取りが減らないように、政府が補填する仕組みから、企業が補填する仕組みに変えるものだ。政府から企業に負担がシフトするのである。 人手不足を解消するために、企業が喜んで負担増加を受け入れるケースもあるだろうが、負担できずにこの制度を利用しない中小企業も少なくないのではないか。制度がどの程度機能するかは、なお不確実だ。
「106万円の壁」よりも高い「130万円の壁」
以上2つの制度変更を通じて、「106万円の壁」の本質的な問題は、幾分緩和されることがあっても、解消されることにはならず、引き続き制度の見直しを進めていく取り組みが求められる。 また、パートなどで働く短時間労働者が厚生年金に加入すれば、保険料負担が新たに発生するものの、事情が許す場合には、労働時間を多少増やすことで手取りを減らさないようにすることは可能である。また、将来、厚生年金を受け取れるようになることで、退職後の生活がより安定するというメリットがある点も、もっと周知されるべきだろう。 「106万円の壁」と比べてより高い壁であり、難所であるのが「130万円の壁」だ。年収が130万円を超え、基礎年金、国民医療保険の保険料を新たなに負担しても、将来受け取る年金の額は増えない。つまり働き損になってしまうからだ。 この問題を解決するには、基礎年金で、専業主婦を前提とした配偶者扶養制度、「第3号被保険者」制度を廃止することが必要である。 しかし、現時点で議論は十分進められていないことから、来年の年金改革に、「第3号被保険者」制度見直しを通じた「130万円の壁」対策は含まれない見通しだ。「年収の壁」問題への対応は、来年以降も継続する。 (参考資料) 「<NHKニュース おはよう日本>「106万円の壁」撤廃案まとめる」、2024年12月5日、NHK 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英