安楽死は保険適用で無料、議論進む国の驚きの現実 家庭医が寄り添い可否を見極める 安楽死「先駆」の国オランダ(2)
安楽死に関する国民的議論が進む欧州には、個人主義、自己決定権の尊重という価値観が根差している。一方で、2001年に世界で初めて国として安楽死を法制化したオランダでも、妥当性の判断には厳格な要件がある。 【表でみる】オランダで安楽死に必要な6要件 「患者による自発的で熟慮された要請であるか」 「患者に絶望的で耐え難い苦しみがあるか」 「安楽死のほかに合理的な解決策がないか」 これらをまず見極めるのが、同国の全居住者が登録するかかりつけ医の「家庭医(GP)」だ。 家庭医は地域に根差し、日ごろから住民と緊密に関わり合い、強い結びつきを築いている。原則、安楽死は家庭医が必要性を認め、かつ第三者である別の医師が患者を診察し同意した上で認められる。家庭医が拒否し、別の機関に判断を委ねるケースもあるが、例外的だ。患者は同国に居住し、健康保険に加入していることなどが前提で、故に安楽死にも保険が適用され、無料となる。 「オランダの安楽死制度では、家庭医の役割が大きい。患者は普段から、自身の最期の迎え方について家庭医と話し合っている」。同国に長年在住する通訳でジャーナリストのシャボット・あかね(76)が指摘する。だからこそ、家庭医が担う責務、負担は重い。 ■ためらいがある日突然、変化 「安楽死は、患者の状況を見極めるプロセスが最も大変なんです」 オランダ中部・ユトレヒト郊外で開業する家庭医、アートヤン・デ・ヨング(41)は、医師5人の診療所で約4千人の地域住民を受け持っている。最も大切にしているのは「患者との対話と信頼関係」だ。 家庭医となって11年のデ・ヨングが初めて安楽死と直面したのは8年前。脊髄の神経細胞が破壊され筋力低下を引き起こす難病「脊髄性筋萎縮症(SMA)」に苦しむ70代の女性患者だった。 女性は「最期は安楽死する」とあらかじめ意志表示していたが、病が進行しても「今じゃない」とためらいを見せていた。それが、ある日を境に変異する。 「痛みがひどく、話すのも不自由。症状は悪くなるばかり。これ以上不必要に苦しみたくない」