はるな檸檬が描くファッション業界のリアル:話題の漫画『ファッション!!』をひもとく
ー登場人物の服装はどういった素材を参考にしているのですか。 明確にこのブランドというものはなく、ストリートスナップを参考にすることが多いですかね。街中の人たちの着こなしは、本当に参考になりますよ。ブランドのルックよりも自分なりに着こなしている人たちのほうが、人間味ある感じに描けるんです。 逆に一枚絵を描くときには、アンリアレイジだったりヴェトモンだったり、ショーのルックを参考にすることが多いと思います。ショーの非日常のルックは絵にした時に面白いものが多くて、ぶっ飛んだデザインの服は描いていて楽しいです。
ーストリートスナップは、実際に街に出て撮られているのですか。 ファッションイベントとかで撮らせてもらうこともありますし、昨年は東急シアターオーブでジャンポール・ゴルチエのミュージカルがあって、それを観に来ていた観客の方々は大いに参考になりました。 ファッション好きの人たちって、とんでもない格好をしていると思われがちですが、そうじゃない人もたくさんいるんです。シンプルなんだけど、アクセサリーだけ尖っているとか。人によっていろいろパターンがあって、それぞれのセンスが垣間見えます。
漫画家視点で見えたファッション業界の実状
ーこれまでの取材の中で、ファッション業界の問題に気づかれたことはありますか。 金銭的な問題が理由で、デザイナーを諦める人が大勢いることに衝撃を受けました。これって、才能とは関係のない話ですよね。若い人が育たなければ、ファッションに未来はないと思います。 この構造的な問題を一人の力でどうにかできるとも思いませんが、少しずつ変わっていくしかないのかな。若い頃に将来を期待されて賞を受賞した子も、数年経ってこのままじゃ生活できないからって別の道を歩むという話を聞いて、悲しくなりましたね。
ー漫画家の世界と比べてみて、どうですか。 私は漫画だけじゃないかって思うんですよ。本当の実力、つまり売れるか売れないかのみで評価されるので、どんなに無名でも売れさえしたら一躍大金持ちになるし、男女差もないと感じています。だから、24年組と言われる萩尾望都先生の時代から女性漫画家がたくさんいるんじゃないかな。 他の芸術と違って、どこかの流派に属しているとか、有名人だからとか、コネクションがあるとか、目に見えない力学とか忖度がない世界。それが漫画だし、希望のある職業だと思います。