ハロウィンに見る習近平政権の締め付け強化、オバケも逃げ出す監視社会の恐ろしさ
今年の中国のハロウィンは昨年と比べて静かだった。背景には、習近平政権の徹底した取り締まりがある。コロナ禍などを経て政治色が強まった中国の「仮装パーティー」を習近平がこれほど恐れる理由とは。 【写真】パンダの着ぐるみで仮装したバイデン夫人に中国側は大喜び (福島 香織:ジャーナリスト) 10月31日はハロウィン(万聖節)の日ということで、日本の都会の街角ではおばけに仮装した若者たちがパーティーを開いていた。もともとは北欧ケルト民族の収穫祭のようなお祭りで、あの世の門が開いて死者たちもこの世で跋扈(ばっこ)するのだとか。子供たちがおばけのコスプレ姿をしておかしをねだったりパーティーをしたりするのはアメリカの風習らしいが、日本でもいつの間にか季節行事になった。 中国でもこうしたハロウィンのコスプレ行事が都会を中心に浸透していたのだが、日本の渋谷などと違うところはかなり政治的なニュアンスがあるところだ。たとえば去年のハロウィンでは、上海の街角で「白い防護服」を着た「おばけ」が大量に出現した。また「医学を学んでも国民は救えない」という標語を掲げた中国の文豪・魯迅の仮装やA4白紙をドレスのようにまとった仮装、「クマのプーさん」のコスプレもあった。 いずれも習近平のゼロコロナ政策批判、習近平批判が込められたものだ。こうした上海のハロウィン仮装は国際社会でも注目を集めている。はたして、今年はどんな仮装があったのだろう。 もともと、中国では共産党員に対しクリスマスやバレンタインデーなど海外の祝祭を禁止し、中国の伝統文化を重んじるように指導していた。これは習近平政権になってからの文化イデオロギー統制の一環として強化され続けている。 理由は西側のこうした文化的宗教的祝祭日の背景には、中国共産党イデオロギーと相反する人権や自由を尊ぶ考えがあるからだろう。確かに中国の多くの都市で、若者たちがハロウィンでコスプレをすることは、表現の自由など主張の機会ととらえられてきた。中国共産党は、体制への不満をもつ若者がこうした自由な自己表現を通じて共産党を批判し、はては政治的集会に発展するのではないかと警戒していた。 中国で最も国際的都市とされた上海では例年、外灘や上海ディズニーランドなどで、華やかなハロウィン用の飾りつけがなされ、10月末の週は観光客を含む多くの若者で夜通しにぎわったものだった。 以前の上海ハロウィンはほとんど政治色がなく、ただのアメリカナイズされた自由で明るいお祭り騒ぎであり、観光の目玉でもあったのだ。だが、そうしたコスプレ祭り自体を習近平は中国伝統文化にはそぐわないと嫌った。 コスプレの中には日本のアニメキャラや和服姿もあり、また露出度の高いものや、血のりをまとったグロテスクで暴力的なものもある。こうした表現は中国共産党的には青少年の精神を害するものとされた。 習近平政権になってイデオロギー統制が急激に強化されたことで、この2、3年、本来さほど政治性のなかったハロウィンや、コスプレという遊びに、体制批判をにじませる傾向が逆に増えてきた。昨年のハロウィンはご存じのとおり、強烈な政治風刺コスプレがいくつも登場し、それが海外のSNSでも拡散されて話題になった。 2022年に上海がゼロコロナ政策による1カ月以上の長期都市封鎖を経験したことや、同年11月末に上海市ウルムチ中路を中心に「白紙革命」と呼ばれる、ゼロコロナ政策批判の若者の集会が発生し、それが全国的に拡大したのち、当局による徹底的弾圧が行われたことなどへの不満と抑圧が、2023年のハロウィンで爆発した。 白い防護服コスプレこそ共産党統制の象徴であり、それは一般市民、若者にとって妖怪、化け物である、という隠喩だ。こうした昨年の上海ハロウィンでは警察による大規模な取り締まりも同時に行われ、その取り締まりの様子もSNSで拡散され、国際社会から非難を浴びたのだった。 さて、今年のハロウィンだが2024年10月25日ごろから、全国的に異様な緊張感が漂っていた。