「おじさんの詰め合わせ」自民党総裁選2024ポスターのイメージ戦略とは。ジェンダー表象研究者の小林美香さんに聞く
デジタル時代のPR活動
『ジェンダー目線の広告観察』(現代書館、2023)などの著書がある表象研究者の小林美香さんに今回のポスターと映像について聞くと、「まず今回のポスターと動画は、初代デジタル大臣(平井卓也衆議院議員)が広報本部長として主導するかたちでPR活動をしている」ことに注目したという。 「ポスターと動画という2つの広報物が作られていますが、このポスターは街中に掲出して反響を呼ぶという一般的な趣旨とは違い、メディアを通して総裁選をアピールするうえでの見栄えやインパクトを重視して制作されたものと思います。これまでも、総裁選のポスターが街に掲示され話題になったということはなかったのではないでしょうか。 また動画を見ると、『それは誰だ? 自民党を変えるのは』といった文言が太ゴシックの斜体の文字で表現されています。このように文字を横にスクロールさせて斜体で使うのは、近年の日本維新の会のポスターに見られる傾向で、力強さや勢い、切迫感を打ち出して煽るような表現です。今回の動画はこうした維新の手法に寄せているような印象を受けました」。 「また動画とポスターに共通するのは演説のシーンです。ポスターの写真は手をあげる、指をさすといった動作を強調するように配置され、力強く演説する指導者像を印象づけるものになっています」。 今回の総裁選は、政治資金パーティー裏金問題による自民党への不信感から脱却し、刷新感のアピールを狙うものだと報じられている。こうした停滞感の打破や世代交代のイメージは、これまで日本維新の会が強調してきたイメージでもある。
「秀逸なコメント」が起こすハレーション
話題になっている「おじさんの詰め合わせ」発言については、「秀逸なコメント」と小林さん。 「地上波のテレビで理知的な若い女性が、自民党総裁というもっとも高い地位と名誉を付与され特権的な立場にある男性を『おじさん』と臆面もなく呼んで腐したと、自分ごとのように傷ついてしまった男性がたくさんいたのでしょう。しかし、このコメントは『おじさん』総体を指して説明するために発せられたものではありません。実際にこのポスターの表象としては『おじさん』の写真が詰め込まれており、ポスター自体の説明としては的確だと思います」。 「男性差別」という批判のなかで、「おばさんの詰め合わせと言ったらそれは女性差別だと批判するだろう」という意見も目にした。しかし『おじさん』と『おばさん』では、社会やメディアにおける扱われ方に違いがある。 「そもそも『おばさん』と呼ばれるような中高年以上の女性が広告に表象されることが、この国ではほとんどありません。介護や看取りなどのケア労働に関する広報物を除いて、その存在自体がほとんどないことにされている。『おじさん』ばかりが社会的な信頼性・指導的立場を担保する存在として扱われていることに、苛立ちを感じている若い女性は多いでしょう。メディアでこうした視点を正直に表明する勇気を持った人が出てきたことは喜ばしいと思います。これまで若い女性のコメンテーターは番組を円滑に進行するために、ニコニコしながら『おじさん』に相槌を打つ存在としてばかり使われてきましたから」。