「井上尚弥は天才ではない」と父・真吾が断言する理由とは。「尚には素直さと愚直さがあった。いや、それは今でも」
◆高校時代からプロと打ち合えるスキルが備わっていたワケ それでも各ジムの大会や高校の試合に出場するようになると、野球やサッカーに比べて競技人口は少ないものの、「おや、この子、将来は」と思えるような逸材が数名いました。ツボに入ったときの攻撃力は大人にも通用するものがありました。 他にも、それこそ身長、体格さえあれば今すぐにでもプロと打ち合えるくらいの潜在能力を持った少年たちが数名いました。 ただセンス溢れる選手にありがちなことですが、精神的に脆いとも感じていました。壁に当たって挫折をすると、ボクシングから離れてしまうケースが少なくなかったようなのです。 幼少期からジムで鍛えていた子が高校から始めた子に負けてしまうとプライドを傷つけられ、そのまま足が遠ざかるというケースも耳にしました。 尚はそうではありませんでした。 尚にも高校時代から、プロと打ち合えるようなスキルはありました。しかしそれは小一から積み上げてきたからです。高校入学からわずか四ヵ月でインターハイを制したので、アマチュアボクシング界には激震が走ったようです。でもそれも、尚が小一からやっていたからだったのです。 ごく簡単に言えば、高校ではじめてボクシングを習った子は三年生でもせいぜい二年半程度のキャリアしかありません。一方、尚には16歳で、身体は小さくともすでに約10年のキャリアがあったのですから。
◆積み重ねのために必要なもの 野球やサッカーも同じだと思いますが、技術は競技に接していた年数に比例します。 パンチ力には先天的な要素もあるでしょう。しかし、拳の一点に体重を集約し、そのパンチを最短距離で相手の急所にピンポイントで打ち抜くことができるようになるまでには、やはり時間を要します。 とは言え、時間をかけて根気よく指導していれば、大概のことは身につきます。パンチ力も練習で身につきます。 そのパンチを的確に相手の急所に当てるのは、日々の積み重ねがものを言います。この積み重ねのために必要なものは──本人のやる気、が第一です。 尚には素直さと愚直さがありました。いや、今でもあります。尚はボクシングに真摯に向かい合っています。地道に練習を繰り返して積み重ねることができました。 一度では覚えられなかったとしてもコツコツと地味な練習を反復することを厭わなかった、だからこそ今がある。自分が常に言い聞かせてきたことですが、おごらずに続けることができたからこそのことなのです。
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