夏休みの自由研究が、世界的発見へ――ニホンオオカミの論文を書いた小学生の探究心 #令和の子
小2の時点でニホンオオカミを研究
日菜子さんがこの剥製標本を見つけたのは、2020年11月3日。この日、つくば市で開催された科博の自然史標本棟見学ツアーに参加したときだった。7階の標本室の棚の下段にひっそりと置かれた一体の剥製標本が目に留まった。日菜子さんが振り返る。 「ふだん見ることのできない標本なので、目に焼き付けておこうと、しっかり見ていたんです。そうしたら、ニホンオオカミの“タイプ標本”(オランダに所蔵)によく似た標本があることに気づきました」 額が平らで、前あしが短く、ほおひげがあり、背中に黒い毛がある──。日菜子さんがそれまでに調べてきたニホンオオカミの特徴を備えていた。 日菜子さんは3歳の頃、絶滅動物を紹介する動画を見たことで、絶滅動物に心を奪われたという。 「絶滅動物は珍しい姿をしていたものが多く、こんな生物が本当にいたんだと衝撃を受けました。その後、親に買ってもらった絶滅動物の図鑑『絶滅動物 調査ファイル』をいつも持ち歩き、生きているときの姿を想像するのがとても好きでした」
科博の上野本館には、絶滅動物の骨格標本が展示されている。小学4年生くらいまでは親と一緒に月に1回以上のペースで通っていたという。 そんな日菜子さんを両親は見守っていた。父親はこれまでの様子を振り返る。 「3歳の頃から、誰に言われるでもなく、ずっと好きでやっていました。これは彼女の趣味になると思いました。絶滅動物などに関連して行きたい場所があったら、夏休みなどに予定を組んで連れていきました」 そんななかでも、とくに興味をもったのが「ニホンオオカミ」だった。1990年代に埼玉県の秩父山中で目撃情報があったことを知った日菜子さんは、小学2年生のときにニホンオオカミについて詳しく調べ始めた。
ニホンオオカミについての本を読み、インターネットで情報を集めた。剥製については、海外にあるものはインターネットで画像を見つけてプリントアウトし、国内にあるものは実際に見学に行った。その際、自分でイラストなどを描き、ニホンオオカミの見た目の特徴を細かく調べた。父に頼み、秩父山中だけでなく、ニホンオオカミが最後に捕獲された奈良県東吉野村などにも足を運んだ。 「ニホンオオカミがまだ生きているのであれば、会ってみたいと思ったのがきっかけでした。小1のときにニホンカワウソについて自由研究でまとめていたので、その流れで次はニホンオオカミという気持ちもありました」 調べた結果は、「私もニホンオオカミに会いに行く」という手書きのレポートにまとめられた。このときに詳細に知識を得たことが、小4で役に立った。