“大人の事情”で成立したジョアン・フェリックスのチェルシー移籍。現地記者からは「災いをもたらす似た者同士のカップル」との皮肉も
移籍は本来、現場のニーズと選手本人の希望が一致してこそ実現すべきものだ。ただ実際には、端から見ていても、さまざまな“大人の事情”が垣間見えるオペレーションがあるのも事実。今夏にアトレティコ・マドリー入りしたコナー・ギャラガーと入れ替わるようにしてチェルシーに復帰した、ジョアン・フェリックスのケースがまさにそうだ。 【動画】ジョアン・フェリックスもゴール!2節ウォルバーハンプトン戦ハイライト 当初チェルシーは同じアトレティコでも、パリ五輪のスペイン代表FWサム・オモロディオンの獲得に動いていた。しかし土壇場で交渉が破断となり、代わりに浮上したのが2022-2023シーズンの後半戦もレンタルでプレーしたフェリックスだった。 首脳陣やファンとの関係が完全に冷え切っていたフェリックスにアトレティコと袂を分かつ必要性があったように、チェルシーにもギャラガーを売却しなければならない事情があった。ファイナンシャルフェアプレーに抵触する可能性があったチェルシーは、今夏選手を売却する必要があり、その際に白羽の矢が立ったのが純利益として計上できるアカデミー育ちのギャラガーだったのだ。 お互いの利害が一致したふたつのオペレーションは、成立する運命にあったと言えるだろう。しかし、重要なのはこれからだ。戦力的なニーズとは別の思惑が働き、成立したふたつのオペレーション。果たして両選手は新天地で輝けるのか。 ギャラガーは期待できそうだ。コケの負担を軽減できる中盤の選手の補強は、昨夏から続くアトレティコの最優先課題のひとつだった。現地のメディアがかねてからその理想像と報じていたのは、ロドリ(マンチェスター・シティ)やトーマス・パーティ(アーセナル)のような足元の技術や危機察知能力に長けたアンカータイプで、ボックス・トゥ・ボックス型のギャラガーは完全に一致するわけではないが、アトレティコの中盤に欠けていた強度をもたらすことができる。 問題は、フェリックスのほうだ。ただでさえスカッドのスリム化の必要性を指摘されているチェルシーの中でも、2列目は特に人材が飽和状態で、コール・パーマーを筆頭にエンソ・フェルナンデス、クリストファー・ヌクンク、ミハイロ・ムドリク、ニコラス・ジャクソン、ラヒーム・スターリング、ノニ・マドゥエケ、ペドロ・ネト、オマリー・ケリーマン、キアナン・デューズバリー=ホール、チェザーレ・カサデイといった多士済々のライバルたちとポジションを争わなければならない。 そんな中、チェルシーとフェリックスの関係を「災いをもたらす似た者同士のカップル」と皮肉るのがスペイン紙『AS』のアリツ・ガビロンド記者だ。 「両者は似ている。一方はサッカー選手として、もう一方はクラブとして、ここ数年の間に特権的な地位を台無しにした。双方ともどん底に突き落とされた状態だ。そして極めつけは、誰も信じていない今回の冗談のようなオペレーションだ。チェルシーはすでに1年半前、アトレティコに大金を支払ってジョアンをレンタルで獲得した。しかしジョアンは失望させた。その後彼は、バルセロナも失望させ、それはEUROでも同様だった。時を同じくして、チェルシーは2020-2021シーズンにチャンピオンズリーグを制したチームを崩壊させた。彼らのマネジメントに合理性という言葉はない。大金を投じて選手を乱獲し、その仕上げが今回のジョアンだった。移籍金5200万ユーロ(約84億円)を投じ、2031年6月までの長期契約を結ぶなど、私にはとても信じられない」 スペイン紙『エル・パイス』によれば、アトレティコで苦悩の時期を過ごしていた時、フェリックスはクラブの幹部に「僕はアトレティコと契約したいと思ったことは1度もなかった」と心境を吐露したことがあったという。そして疑問が生じる。さまざまな思惑が絡んで成立した今回のチェルシー移籍は、果たしてどうだったのかと。 文●下村正幸
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