<調査報道の可能性と限界>第5回 「内部書類を手に入れろ」調査報道のプロセスは?
朝日の「吉田調書」報道の問題点
最近問題になった調査報道では、朝日新聞の「吉田調書」報道があります。東京電力福島第1原子力発電所の事故に関する政府事故調のうち、所長だった吉田昌郎氏(故人)の調書を独自に入手したとして、朝日新聞は2014年5月20日の1面で「所長命令に違反 原発撤退」「福島第一所員の9割」と報じました。 これが誤報だったとして朝日新聞は9月11日になって記事を取り消しますが、問題の記事をよく読むと、「逃げた」とされた所員の取材結果が記載されていないことが分かります。実際、検証紙面では所員への確認取材が「不十分」だったと記載されています。事故当時、第1原発には約650人がいました。いったい、その何人に取材したのか、その結果がどうだったのか、検証紙面では詳細が明らかにされていません。 調査報道は取材も報道結果も自己責任であり、徹底取材が命です。極めてデリケートな取材では、事前に顧問弁護士も交えて検討し、「真実性はあるか」「真実相当性は十分か」を検討するケースもあります。朝日新聞の吉田調書報道において、所員への取材が「不十分=ほとんど取材していなかった」であれば、調査報道の原則を踏み外していたと言わざるを得ないでしょう。
※ ※ ※ 新聞社などメディア各社の取材力が問われる「調査報道」。過去に数々の調査報道を手がけてた経験を持つベテラン記者が7回連載で「その可能性と限界」について解説する。第6回「情報源秘匿と『1人旅』」は10月6日(月)に配信予定。