「人質司法を変えるきっかけに」 日弁連が導入訴える「弁護人立会い」 取り調べで何が変わる?
1966年に静岡県でみそ製造会社の専務一家4人が殺害された事件で一旦死刑が確定した袴田巌さんの再審で、静岡地裁は9月26日、袴田さんの自白について「捜査機関の連携によって肉体的、精神的苦痛を与えて供述を強制する非人道的な取り調べによって獲得された」と指摘し、無罪を言い渡した(その後、無罪が確定)。 密室で行われる取調べは長年問題視されており、一部の事件で録音・録画が導入されるなどしてきた。それでも違法な取調べがなくなることはなく、日本弁護士連合会は現在、取り調べに弁護士が同席する「弁護人立会い」の導入を訴えている。 「弁護人立会い」がなぜ必要なのか。日弁連取調べ立会い実現委員会事務局次長で、海外の取り組みを視察したことがある半田望弁護士に聞いた。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●警察は警戒 立会いはほぼ認められず
ーー日本で弁護士が取調べに立ち会うことは法律で禁止されていないそうですが、実際はなぜ行われていないのでしょうか? 捜査機関が被疑者を取り調べる場に弁護人が立ち会うことについて、法律にはこれを禁止する明確な規定はなく、捜査にあたる側の判断に委ねられています。ただし、現在では数例の実践例はあるものの、後述するとおりほとんどの事件では取調べへの弁護人立会いは認められていません。 日弁連での調査の結果、警察は立ち会いを求められたら現場で判断せずに上に上げて組織的な対応をするようにとの内部通達が全国的に出されていることが判明しています。現時点ではこの通達に基づき「組織的に拒否している」と考えられます。ただし、過去には実施できたケースもあります。
●「準立会い」でも一定の効果
現時点で現実的に可能な方法は、身体非拘束事件(在宅事件)や参考人取調べにおいて、弁護人が警察署のロビーや敷地内で待機し、被疑者からの相談にすぐ対応できる場所で待機するという「準立会い」です。 準立会いでは、弁護人は警察署に被疑者と同行し、被疑者が希望した場合や弁護人が必要と考えるタイミングで取調べの中断を求め、必要な打合せを行います。取調べ内容を弁護人が直接確認出来る訳ではありませんが、ほぼリアルタイムで被疑者に対して必要な助言を行えます。 捜査機関は弁護人が取調べに立ち会うことを拒否しますが、準立会いは捜査機関が拒否することはできません。 刑事訴訟法39条において逮捕された被疑者にはいつでも弁護人と面会できる「接見交通権」が保障されていますが、在宅の被疑者と弁護人との面会(打合せ)は、本来はいつでも自由に可能です。 裁判例でも刑訴法30条1項(弁護人選任権)を根拠に、被疑者と弁護人が相談することや電話連絡をすることを捜査機関が制限することはできないということが確立しています(東京高判令和3年6月16日 判タ1490-99、札幌高判令和6年6月28日)。 そのため、任意捜査の段階でも被疑者が弁護人に相談したいと言えば、捜査機関は取調べを中断して弁護人に会わせなければなりません。また、弁護人が被疑者との面会を求めた場合、捜査機関は速やかにその旨を被疑者に伝達し、被疑者が面会を希望する場合には弁護人と会わせなければなりません。 身柄を拘束されずに在宅で捜査される被疑者には警察署に出頭する義務はなく、取調べに応じる義務(取調受忍義務)もありません。ここからも、被疑者が「弁護人と話をしたい」と希望した場合、捜査機関は取調べを中断して打合せをさせるべきということになります。 弁護人の待機場所は取調室に近ければ近いほどいいのですが、警察は施設管理権等を主張して取調室の側での待機は認めません。もっとも、ロビーなどの公共スペースでの待機を拒否することはできませんので、現時点ではロビーや待合室などで待機し、適宜のタイミングで被疑者に戻ってきてもらう、または被疑者を呼んで取調べ状況を確認し、必要な助言を行っています。 取調受忍義務がない以上、取調中でも被疑者が帰りたいといえば帰さなければならないのが本来ですが、弁護人の準立会いがない場合には捜査機関は色々と理由を付けて取調べを続行しようとします。 しかし、準立会いをしていれば、取調べが膠着状態になった場合や長時間にわたる場合、被疑者の心身の負担が過大になっている場合など、弁護人がこれ以上の取調べ継続は望ましくないと判断した場合には被疑者を帰らせるよう求めることもでき、捜査機関もこれを拒否することは通常ありません。 被疑者が黙秘をしている場合であれば、逮捕を避けるために警察署への出頭はさせるものの、黙秘する旨を宣言して短時間で取調べを打ち切らせて被疑者を帰すという活動をすることも考えられます。 捜査機関にとっての武器は時間です。時間をかけて被疑者が根負けし自白するまで問い詰める(捜査機関は「説得」という言い方をしますが、ほぼ「強要」だと思われます)のがこれまでのやり方でした。 袴田事件でもこのような取調べ手法が虚偽自白の原因になっていると思われますが、準立ち会いでは被疑者が取調べに応じるかどうか、供述するかどうかの判断を主体的に行えるように弁護人が支援できます。また、違法・不当な取調べをその場で抑止するための手段としても活用できる点で、弁護活動としては画期的だと思います。