飼いならされるのは人間!? 魔人の世界に迷いこんだ「ニンゲン」の摩訶不思議な飼育の記録【書評】
ペットを家族の一員として、大切に飼育している人は少なくないだろう。だが仮に、「人間」が飼われる側だったら…。その瞳にはどのような世界が映っているのだろうか。 【漫画】本編を読む
全編フルカラーで、絵本のようなかわいらしい雰囲気を漂わせる『ニンゲンの飼い方』(ぴえ太/KADOKAWA)。本作は、「人間」と「人間を飼育する異形の存在」との交流を描いた、ややグロテスクでありながらもスパイスが効いた作品だ。 カボチャかトマトのような頭部。タコのような足。4つの目。全身真っ黒でまるでケムリのような姿。そのどれもが体長十数メートルにおよぶ…ここはそんな「魔獣」や「魔人」が住む世界。この世界には、まれに「ニンゲン」が迷いこむのだ。 ある日、迷いこんだ人間をたまたま見つけた「魔人」は、その「ニンゲン」を放っておくことができず、みずから飼育しようとする。 「魔人」たちの造形はどれも独特でいっけん恐ろしい。しかし「ニンゲン」のことを常におもんぱかり、献身的に世話をする様を見ていると、悪い存在ではないのだと気がつく。それは作中で囚われた「ニンゲン」から見てもそうだ。当初は、自分の何倍も大きく、言葉も通じず、ただ怖いだけだった「魔人」を少しずつ信頼するようになり、心を通わせていく過程には胸をうたれる。 各話の間には、ニンゲンの飼い方に関するコラムが差しこまれている。「魔人」は作中で観察日記をつづっており、コラム内で「魔人」みずからが詳細を解説しているところからも、その観察日記がもとになり「魔人」の手によってこのコラムが書かれたのでは…と想像してしまう。 コラムには飼うのに必要な用具から、適切なコミュニケーションの方法などが事細かに記載されている。「ニンゲン」との良好な関係を築くためのあれやこれやが記され、「魔人」から「ニンゲン」への深い愛情を感じるのだ。しかし、これらすべてが「私たち(人間)を飼育するためのノウハウなのか…」と思うと、なんだか背筋がゾッとするようなうすら寒さも感じてしまう。 本作は、「魔人」と「ニンゲン」が次第に心を通わせていく心温まるストーリーとして楽しむことができる。一方で、人間がペットとして飼われている構図を、怖い物見たさの視点で楽しむこともできる。かわいいだけでも怖いだけでもない、この独特な空気を、是非味わってみてほしい。 文=ネゴト / たけのこ