核融合、「イーター」延期…日本のエネルギー戦略への影響度
環境問題解決のカギ
日本ではイーターの技術目標達成のための支援研究や人材育成に向けて、量子科学技術研究開発機構那珂フュージョン科学技術研究所(茨城県那珂市)の核融合実験炉「JT―60SA」のプロジェクトが進められている。高温プラズマを磁場で閉じ込める核融合炉の方式の一つである「トカマク型超伝導プラズマ実験装置」で、日欧で共同建設した世界最大級の装置だ。20年から試験運転を始め、23年10月に初プラズマを達成することに成功した。イーターもトカマク型の装置であり、今後はJT―60SAでプラズマの性能向上のための実験を進める。 核融合関連の政策として、内閣府は23年に核融合エネルギーの10年先を見据えた「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を策定。ただ核融合エネルギーの国際競争が激化している。戦略目標には、当初は日本が国として核融合発電の実証を50年ごろとしていたが、30年代に前倒しする方針を固めた。同方針に関しては、5月に自民党のフュージョンエネルギープロジェクトチームが提言をまとめている。同座長の平将明衆院議員は「核融合エネルギーはエネルギー問題や環境問題を解決できる究極のエネルギーであり、国策にするべき」と強調した。 政府がまとめた「統合イノベーション戦略2024」にも30年代の発電実証の達成に向け、工程表の作成や安全規制に関するあり方を見直すとした。さらに原型炉実現に向けた基盤整備のために量研機構などの体制を強化し、スタートアップなどに共用できる実規模技術開発に向けた試験施設や設備群を整備する。 日本にはすでに30年代の核融合発電を目標に掲げる民間企業もあり、核融合エネルギーは産業界からも注目されている。3月にはフュージョンエネルギー産業協議会(J―Fusion)が設立。会長企業の京都フュージョニアリング(東京都千代田区)や住友商事、ヘリカル・フュージョン(東京都中央区)など21社が参画する。日本電機工業会の小澤隆原子力部長は「核融合でエネルギーを生み出して社会に貢献し、経済を回す必要がある。ゴールを同協議会全体で共有することが重要」と語った。 各国も国策で核融合エネルギーを推進している。米国は6月、フュージョンエネルギー戦略2024を発表。23年には、英国で40年までに原子炉に相当する「STEP」の建設、ドイツで核融合に関する研究支援プログラムを始めると発表した。中国ではイーターに先立ち、水素の同位体である重水素・三重水素による核融合反応の運転を行うトカマク型核融合実験炉「ベスト」を23年から建設している。NTTの篠原弘道相談役は「各国で核融合の研究開発に大規模な投資を実施し、自国への技術や人材の囲い込みを加速している。日本も変化に応じた新たな打ち手を考えることが必要」とした。 核融合技術の実用化はエネルギーの確保だけでなく、二酸化炭素(CO2)を排出しないことから環境問題の解決にもつながる。少ない燃料で莫大(ばくだい)なエネルギーを生み出せることが特徴の核融合。安価で安定した電力生産ができるベースロード電源の構築だけでなく、小型動力源などへの適用研究が進むことで深宇宙を探索する宇宙機や地球の深海探査などの動力源になるかもしれない。