「ドコモ銀行」どう実現? 住信SBIネット銀買収の観測も
通信各社が金融を軸にした「囲い込み」を強化しつつある。KDDI、ソフトバンク、楽天が金融を軸に経済圏を拡大するなか、出遅れているのがNTTドコモだ。 【もっと写真を見る】
通信各社が金融を軸にした「囲い込み」を強化しつつある。 KDDIは2023年9月から開始した「auマネ活プラン」を「auマネ活プラン+」としてリニューアル。これまではau経済圏にある銀行や証券、カードなどを契約していることが重視されたが、新プランではau PAYやカードでの決済額に応じてPontaポイントを付与する点が強化された。 ソフトバンクの「ペイトク」、NTTドコモ「ポイ活プラン」を意識したようだ。 一方で、NTTドコモも「ポイ活プラン」に一部改定が入り、特典対象となる決済手段が増えたり、マネックス証券での積み立てに対する特典が追加された。 ソフトバンクに関しては、いまだに新たな対抗策が発表されていないが、先日、行われた決算会見で宮川潤一社長が「ペイトクの魅力を高めたい」と言及しており、近日中にも何かしらのテコ入れ策があるのではないか、と見られている。 ソフトバンクとしては、中容量プランが人気のワイモバイルからデータ使い放題のソフトバンクにユーザーを移行させようと苦労している。そんななか「ペイトク」でお得度合いを高めることで、なんとかワイモバイルからソフトバンクへの乗り換えを促進させようと目論んでいるのだ。 KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル共にグループ内に金融関連企業があるというのが強みになっている。KDDIに関しては「auじぶん銀行」がauフィナンシャルホールディングスの100%子会社化になる一方で、49%出資していた「auカブコム証券」が三菱UFJ銀行の100%出資となった。auカブコム証券は2025年2月から「三菱UFJeスマート証券」に名称が変わる。 KDDI、ソフトバンク、楽天が、金融を軸に経済圏を拡大するなか、大きく出遅れているのがNTTドコモだ。 三菱UFJ銀行などと組んでゼロから参入する方法 NTTドコモはもともとクレジットカード事業が強く、dカード全体の会員数は1800万人、そのうちdカードゴールドは1100万人で、最近になって年会費が2万9700円のdカードプラチナを始めたばかりだ。 クレジットカード事業が軸であったが、他社に追いつこうと、昨年にはマネックス証券を傘下に収め、さらにオリックス・クレジットを連結子会社としたのち、2025年1月には「ドコモ・ファイナンス」に社名変更する予定だ。 ただ、NTTドコモには金融サービスの中心となる「銀行」がないというのが最大の弱点となっている。2024年6月に社長に就任した前田義晃氏は「銀行業に参入したい」と様々なメディアとのインタビューで公言。しかし、11月7日の決算会見では「今年度中に目処をつけたいと申し上げたが、まだ報告できるレベルではない。焦っているが頑張って進めたい」と、現在進行中であることが明らかになった。 NTTドコモが銀行業に参入するには3つの方法が考えられる。 まず1つはゼロから新規参入するというパターンだ。 これはかつてKDDIが三菱UFJ銀行と組んで「じぶん銀行(現、auじぶん銀行)」を作ったという事例がある。 KDDIとして単独で銀行業に参入するにはノウハウがないということで、三菱UFJ銀行をパートナーに選んだ。 折しも、auじぶん銀行から三菱UFJ銀行の資本が抜けたという絶好のタイミングでもある。このコラムでも「三菱UFJ銀行とNTTドコモが手を組んで新規に銀行を立ち上げるのでは」という観測をしてみたが、KDDI関係者は「三菱UFJ銀行からはそんなつもりはないと聞いているが」と語っていた。確かにKDDIと分かれた途端にライバルであるNTTドコモとタッグを組むというのは、あまりに節操がなさ過ぎる。銀行員が貸金庫の中身を盗むという、もはや誰を信じて良いのか分からない時代ではあるが「NTTドコモと三菱UFJ銀行で新銀行設立」は考えにくいのかも知れない。 住信SBIネット銀行の「NEOBANK」を使う方法 2つ目に考えられるのが、住信SBIネット銀行が提供している「NEOBANK」という仕組みを使う方法だ。いわゆる「BaaS(Banking as a Service)」として、銀行が持つ決済や預金、融資などの金融サービスを、APIを介して非金融事業者に提供するというものだ。 NTTドコモが他の事業者にMVNEとして通信回線を提供。多くの事業者がMVNOとして通信サービスを提供する、銀行版といえばわかりやすい。 NEOBANKには現在、JALやヤマダ電機、高島屋などが名を連ねているが、NTTドコモもこの座組に入ってしまえば、手っ取り早く銀行業を始められる。 ただ、NEOBANKへの可能性をNTTドコモの前田社長に尋ねたところ「自分で手に入れないと得られないものがあることは事実。そういう意味では、競合他社はみんな自分で銀行業を持っている。他社で提供できるものが、うちでは提供できないとなると、競争としてすでに劣っていることになる。ユーザーに我々を選んでもらうためにも、この状態は解消したい」として、NEOBANKでは足りないモノがあるという認識のようだ。 住信SBIネット銀行買収の観測も 最近、一部の報道では住信SBIネット銀行自体がNTTドコモのターゲットになっているという話もある。 NTTドコモが銀行業に参入する3つ目の方法として「既存銀行の買収」というのがある。世間には経営が厳しくなっている銀行はいくつもあるのだが、リアルの店舗を持っているような銀行を買収してもNTTドコモにとってお荷物にしかならない。 一部では、外資に狙われてるセブン&アイ・ホールディングスが参加のセブン銀行を手放すのではないかとも言われている。セブン銀行は全国、至る所にあるATMが最大の強みとなっているが、いまさらNTTドコモがセブン銀行を手に入れて、全国のATM網を持つ意味が見いだせないだろう。 となると、やはりネット専業で銀行業をしている事業者を買収するというのがNTTドコモにとっての理想だ。 その点、確かに住信SBIネット銀行は、ネットに特化しており、アプリの操作性も優秀で、口座開設の手続きなども実にスムーズだ。個人的に法人を設立した際、最初に住信SBIネット銀行に口座を開設したが、その手続きやアプリの操作性などはかなり優秀であり、NTTドコモの傘下に入り、dポイントが貯まるようなことになれば、今まで以上に満足度の上がるネット銀行になるのではないか。 果たして、前田社長の言うように「今年度中に何かしらの動き」はあるのか。固唾をのんで見守っていきたい。 筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ) スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)『未来IT図解 これからの5Gビジネス』(MdN)など、著書多数。 ※お詫びと訂正:掲載当初、NEOBANK利用例としてJR東日本を挙げていましたが、JR東日本の「Jre Bank」は楽天銀行のBaaSを利用しています。該当箇所を訂正します(12月10日12時7分) 文● 石川温