「役作りは一生懸命やらない」と江口のりこが語る理由とは 「愛に乱暴」公開記念対談 吉田修一×江口のりこ
「往年の名女優さんは江口さんタイプ」
吉田 京マチ子さんとか、いわゆる往年の名女優さんって江口さんタイプらしいですよ。セットに呼ばれるまで全然普通で、カメラが回って立ち上がった瞬間に役に入る。チェコの映画祭でも江口さんの演技が大絶賛だったそうですね。フランスの映画評で「エグチ・ノリコはキャラクターに威厳と神秘を与えた」と紹介されているのを読みました。 江口 うれしいな。 吉田 演じる人物について、好きだなとか嫌いだなとか感じたりすることはありますか。 江口 それはないです。もっとドライかもしれないですね。好きだろうが嫌いだろうがやらなきゃいけないし。 吉田 こういう役をやってみたい、というのは? 江口 楽器を演奏する役をやってみたいです。芝居だけじゃなく、何か別のことを練習してやりたい。でも、体を動かしたりするダンスとかは嫌です。マラソンとかは絶対にイヤ。 吉田 楽器は決まってるんですか。 江口 トランペットとかかっこいいですね。憧れがあります。
もっと意地悪でもいい
江口 今回の脚本では、吉田さんから「もっと自由にやってください」というリクエストがあったと聞きましたが、ご自身の作品を自由にしていいってどういうことですか? めちゃくちゃにしてもいいっていうわけじゃないですよね。 吉田 「悪人」(10年)の時は、李相日監督と一緒に僕も共同脚本で参加しました。その時に原作に縛られる辛さと、映画ならではの広がり方っていうのを教わりました。なので、核の部分がお互いつながってるなと感じる人であれば、もう自由にやってくださいってお願いしています。演じる方としては、脚本を読んでここはちょっと気合入れようと思う場面はありましたか? 江口 プレッシャーのかかるシーンはありました。今回の脚本で言うと、最後の会話の場面とか。監督と相談しながらあそこに向かってやるっていう目的地を決めて、脚本はそこに向かうための地図みたいなものだと思います。でも、監督って面白いですよね。大事なシーンの時ほど言わないんですよ。森ガキ監督もそのタイプでした。 吉田 風吹ジュンさんが監督のことを「映画に対して遊び心を忘れない『ガキ』そのもの」と表現されていました。 江口 私もそう思います。いい意味でもそうでない意味でも(笑)。森ガキさんは、現場のみんなが楽しくやれるようによく見てますし、すごく優しい方なのですが、もっと意地悪になってみてもいいんじゃないかって思ったりしました。 吉田 もっと意地悪でもいい、とは。 江口 監督って意地悪な人の方が面白いと思うんですよ。役者にお願いするのではなく、(上から目線で)「そんな芝居をして……」みたいな。私なんかは、首をつながれて、その中で芝居してる方が、自分が面白く映っている気がします。出来上がったものを見て、自分がラクしてるなって思うと、すごくがっかりする。そうじゃなくて、私がどっか行こうとしたら、グッとリードを引っ張ってくれるような緊張感があるといいな。