「認知症支援」家族より本人の意向を尊重するスウェーデン 本人より家族や支援要請者の意向を尊重する日本
宮本礼子・長谷川佑子「日本とこんなに違うスウェーデンの高齢者医療・介護」
内科医の宮本礼子さんと、認知症専門看護師としてスウェーデンで働いている長谷川佑子さんが、日本とスウェーデンの高齢者医療・介護の現状を比べながら、超高齢社会の日本のあり方を考えます。 【図解】認知症ってどんな検査をするの?
高齢者の独り暮らしに不安を抱く近隣住民
日本では、高齢者が独り暮らしをしていると、火事を起こしたり、救急車を呼んだりするのではないかと、近隣住民は不安を抱きます。さらに、ゴミ出しができなかったり、道に迷ったり、夜中に隣近所を訪ねたりする場合は、その家族や市役所に苦情を言って対応を求めます。次は、私が実際に経験した例です。
ゴミ処理ができず、異臭を通報された男性
70代の男性。妻は1年前に死亡し、子供はおらず独居でした。ある日、マンションの隣の部屋の住民が「ベランダから異臭がして虫が発生している」と市役所に通報しました。地域包括支援センター(以下、包括)職員が本人宅を訪問すると、本人は「電気代がかかるから冷蔵庫を使わない」と言い、ベランダに食品を置いていました。真夏のため腐敗が進み、ウジが湧いていました。室内にも魚が放置されていました。 包括職員は、介護保険サービスを利用すればゴミ処理等を手伝ってもらえること、そのためには病院受診が必要なことを説明しました。すると本人は「健康には自信があるので、病院には絶対に行かない。ゴミ処理は自分でできる。お金のかかるサービスは使いたくない」と提案を断りました。 生活面では、ゴミ出しはゴミカレンダーを見て、ある程度できていました。数分前に話したことを忘れますが、毎日買い物に行き、簡単な料理を作っていました。認知症が疑われるため、「認知症初期集中支援チーム」が4か月にわたり、本来の仕事ではないゴミ処理を手伝いながら、負担金の生じる病院受診と介護保険サービス利用を勧めました。しかし、本人は一貫してその提案を断りました。
ほとんど尊重されない本人の意思
日本には、認知症の人やその家族を支援する「認知症初期集中支援チーム(以下チーム)」が地域ごとにあります。医師や医療・介護の専門職から成り、早期診断・早期対応に向け、受診と介護保険サービス利用を本人と家族に勧めますが、医療や介護は行いません。本人からの要請はきわめてまれで、多くの場合は家族・介護支援専門員・医療機関・民生委員・近隣住民からの要請で本人宅を訪問します。 大抵の場合、このケースのように、本人は受診と介護保険サービス利用を拒否します。そのため、本人と支援要請者の意向は対立します。チーム活動の建前は「本人の意思を尊重すること」ですが、わが国は患者の保護と周囲の安全の方が重視されるため、本人の意思はほとんど尊重されません。いずれにしても本例は、十分ではないにせよ、自立した生活を送っていたので、当チームの支援はよけいなお世話だったのかもしれません。(宮本礼子)