「認知症支援」家族より本人の意向を尊重するスウェーデン 本人より家族や支援要請者の意向を尊重する日本
「自己決定」を尊重するスウェーデンの認知症介護
スウェーデンでも、認知症が進行した独り暮らしの人が、近所に迷惑をかけることはもちろんあります。ただ、それが一大事になることはあまりないです。それは、スウェーデン人が「世の中にはいろいろな人がいるよね」と多様性を認めているせいかもしれません。みんな比較的同じに見える日本の社会とは少し違ったところがあります。 人種が違っても、病気やハンディキャップがあっても、同じ学校や同じ地域で交流しながら生活します。また、「個人主義」が当たり前とされ、近所や他人への関心や干渉も少ないです。もちろん、近所の問題はスウェーデン人にとっても気になりますが、「トラブルを避けたいのなら森に住むのが一番だね」と冗談を言います。多くのスウェーデン人が森の中に住んでいるので、あながち冗談ではないのかもしれません。 さて、スウェーデンで先ほどのような症例が市に連絡されたら、命には関わらないので、多くの場合対応されるとは思いません。しかし、問題が繰り返されて仮に市の高齢者支援の職員が訪問したとしましょう。その場合、この職員はまず、認知症ケア専門のケアワーカーに本人と信頼関係を築くことを依頼します。ケアワーカーは、例えば同じ曜日の同じ時間に訪問して世間話をするところから始め、一緒にお茶をして、そして信頼が得られるようになったら、定期的なお掃除の支援を提案します。 スウェーデンでは医療者の診断がなくても生活支援は可能なので、できることから少しずつ介入していきます。本人が医療機関につながることを拒否した時には、市は医療機関に情報提供をすることができません。また、本人が医療を求めていない場合には、医療機関が動くこともありません。認知症の人でも理解できるように適切なコミュニケーションをとり、「本人の自己決定」によって医療も社会支援も行われます。 在宅生活の継続か、施設への転居かについても話し合いが続けられます。その際、家族は自分たちの意見を医療・介護職員に伝えることはできても、支援は高齢者の意思や自己決定を第一に決まります。