「惑星」の新たな定義案が発表される 数値的な定義と分かりやすさを両立
■定義を作るにあたっての諸問題
Margot氏ら3氏は、惑星に関する現行の定義の問題を解決する、新たな定義の構築に取り組みました。これは現行の惑星の定義の精神を尊重しつつ、2018年にIAUの委員会(※5)が提案した太陽系外惑星に関する暫定の定義(記事末尾の付録2を参照)も盛り込んで内容を改善したものです。 ※5…委員会F2 – 太陽系外惑星と太陽系(Commission F2 Exoplanets and the Solar system) 定義の作成に当たって、3氏は太陽系にある惑星・準惑星・衛星・小惑星について、その質量・直径・公転軌道の性質を元にした(k平均法による)分類を行いました。これは、多数の天体に関して詳細なパラメーターが判明している唯一のサンプルが太陽系であるためです。一方で、太陽系が “非典型的なサンプル” である可能性もあるため、いくつかの詳細なパラメーターが判明している太陽系外惑星との比較も行い、検討した定義が異質なものになっていないかをその都度チェックしました。 数値的な定義を設けるにあたって、3氏が特に注目したのは「質量」です。発見手法の性質上、太陽系外惑星は質量の範囲を具体的に算出することができ、条件が悪くてもその下限値を求めることができます。太陽系の天体の場合、衛星の公転周期をもとにより高精度な値を求めることも可能です。 質量は重力の源であるため、その天体が球形をしているかどうか、実際に形状を観測しなくても議論することができます。太陽系でさえ形が確定していない天体が数多くある中で、これは有用な手段です。また、公転軌道の近くにある別の大きな天体は重力によって排除されるため、質量をもとにすれば別の要件についても議論することができます。
これらを踏まえ、3氏は最初に、以下の5つの要件からなる複雑な定義を考案しました。 惑星とは、次のような天体である。 (a) 1つまたはそれ以上の恒星、褐色矮星、または恒星の残骸を周回している (b) 公転軌道の周辺を動的に支配するのに十分な質量、つまりmを地球質量で表された惑星天体の質量、m_centralを太陽質量で表された中心天体の質量、aを天文単位で表される長半径とした場合の、 m > 0.0012 × m_central^(5/8) × a^(9/8) を満たす。 (c) 自身の重力が剛体力に打ち勝つのに十分な質量を持つことから、ほぼ静水圧平衡の状態とほぼ三軸楕円体の形を取る質量、つまり m > 10の21乗kg である。 (d) 実際の質量が重水素の熱核融合の限界質量を下回る(現在、太陽と同じ金属量では木星の13倍の質量と計算されている)。 (e) 中心天体との質量比がL4/L5不安定性を下回る、つまり m/m_central < 2/(25+√621)≈1/25 である。 衛星とは、惑星を周回する天体である。 ただし、3氏は、これにもまだ問題があると考えました。例えば、要件bは公転軌道の長半径を含みますが、分類において似たような定義が使われている小惑星や彗星において、長半径による天体の分類は意味をなさないという批判も一定数存在します。また要件cの質量は、下限値に近い場合、実際の形状が球形とは異なる可能性もあるため、自信をもって球体と言える質量の下限は、もう少し上に置く必要があります。さらに要件eについては、軽い恒星を公転する重い惑星は、この定義においては惑星ではなくなってしまうという明らかな問題が生じます(※6)。 ※6…例えば、最も軽い恒星は太陽の約8%、木星の約80倍の質量です。ここに木星の約4倍以上の惑星が1個だけ公転している場合、物理的な分類は明らかに惑星であり、公転軌道の不安定さもないにも関わらず、要件eによって惑星ではないことになってしまいます。