10分の「手術」と8時間待つ「飲み薬」 医会が経口中絶薬の導入に消極的な事情 #性のギモン
「女性への配慮が足りなかった」理由は
イギリスでの1997年の研究では、女性自身が中絶法を選択する際の「受け入れやすさ」を調査している。また、カロリンスカ大学病院の研究者の話では、スウェーデンでは薬による中絶を選択した女性に、「使い心地」をアンケートし、集計も行っているという。 日本の医会ではそうした調査は行われてこなかった。医会へ問い合わせると、〈「女性の使い心地」や「受け入れやすさ」といった視点で調査する予定はありません〉と文書で回答があった。今後も聞く意向はないということだ。 なぜ医会は女性の意向について関心を持とうとしないのか。医会副会長の前田津紀夫氏にその点について尋ねた。前田氏は、女性の意見が反映されにくかった事情をこう語る。 「2013年に医会内部で初期中絶薬に対する考え方を議論した時も、話し合った7~8人に、女性の委員は1人しかいなかった。今も、医会会員のざっと半分以上は50代以上で、男性が多い。そういうところに女性への配慮が足りなかったという反省はあります」
そうした配慮の乏しさは、現在の経口中絶薬の運用にも通じている。WHOの新ガイドライン(2022年発表)では「経口中絶薬は妊娠9週より前なら自宅で服用できることがある」と明記。海外ではその場合、「自己管理責任のもと自宅で服用」としている国もある。日本では医療機関での服用が前提。それも無床診療所は許可せず、当面有床の病院や診療所に限るという形で運用が始まった。 ある指定医師は、それが現在も普及を阻む要因になっていると話した。 「日本での人工妊娠中絶の6割は無床診療所で行われています。現在の条件が続くなら、経口中絶薬は広がらないでしょう」 なぜ条件がついたのか。多くの人に聞くなかで、医会のある幹部は、中絶薬の運用が厳格化した経緯について、宗教や保守的な政治家の影響を口にした。 「無床施設で使った場合、夜間の救急に対応できない施設が出てきてしまう。その状況を見極めるまでは有床の医療機関で使ってほしいと。厚労省は建前上そう言っていますが、実際はいろんな強い力、特に日本会議系の政治家の影響が強いと聞いています」 一方で、女性医薬の導入に関わりのある産科医からは、「避妊薬の時は、政治と宗教の影響を肌で感じることがあったが、中絶薬に限っては、直接感じる機会はなかった」という声も聞いた。 ならば実際、承認の遅れや使用条件の厳格化に、医会や政治家の影響はどれほどあったのか。