10分の「手術」と8時間待つ「飲み薬」 医会が経口中絶薬の導入に消極的な事情 #性のギモン
「世界に誇るぐらい安全に手術をやっている」
医会には、医会での主な協議などの活動報告が掲載される「常務理事会の主なる協議・報告事項」という文書がある。その約30年分の文書を調べたところ、経口中絶薬導入に向けた議論の記述は2013年までなかった。 初めて出てくるのは2013年2月。医会・常務理事会の協議事項には、<RU486(ミフェプリストン)に関する件(政策)>とある。 医会によれば、経口中絶薬の対応策を検討するよう厚労省から呼びかけがあったという。それを受け、2013年8月、医会内で検討部会を開催。「経口中絶薬に対する考え方」がまとめられた。これが経口中絶薬に関する医会の最初の動きだった。 医会の事務局にも確認すると、それまで「日本への導入を積極的に働きかけたことはなかった」という。 なぜ医会は採り入れようとしなかったのか。医会の現会長である石渡勇氏に取材した。 石渡氏は、自分たちの掻爬や吸引という手法が経口中絶薬よりも安全だと語った。 「初めから、日本は世界に誇るぐらい安全に機械的中絶処置(手術)をやっていますから」
製薬会社関係者への取材では、日本の医会が経口中絶薬に関心をもっていなかったことが開発に踏み切れなかった要因だった。治験を担当する会社に対して医会が専任の人員を配置したのは2018年。石渡氏もそれについて否定しなかった。 「私たちが製薬会社に導入を強く言わなかったということも(影響が)あるかもしれない」 では、世界各国で承認が進むなか、日本はなぜ早くに経口中絶薬に取り組まなかったのか。石渡氏は簡単に中絶できること自体に否定的な考えが日本社会にあったと答えた。 「日本では中絶に関して皆さんがよしとしていない。反対する人もいる。結婚前に妊娠すること自体がおかしいという声もある。日本は非常に慎重だったというのがありますよね」 石渡氏は、医会の指定医師たちの医療技術の高さについて繰り返し語った。その一方、掻爬や吸引で女性がどう感じるかという心理面の話には触れなかった。