名門ビジャレアル、歴史の勉強から始まった「指導改革」。育成型クラブがぶち壊した“古くからの指導”
歴史の勉強から始まった指導改革
自前の選手を育てて可能な限りトップチームを強化する。そんな育成型クラブが、このピンチを機にスタートさせたのが2014年の指導改革だった。 クラブ内に「メソッドダイレクター」という新たな役職が設けられ、セルヒオ・ナバーロが外部から招へいされた。ビジャレアルの育成からトップチームまで育った選手であり、引退後は小学校教師を務めたり海外での指導経験もあった。セルヒオとサイコロジスト(スポーツ心理学者)3人、計4人がメソッドダイレクションのスタッフだった。 セルヒオとの最初のミーティングは緊張した。私は彼が「こういうタイプの選手を連れてきますよ。こういう選手を育ててくださいね」と説明し、チームプランみたいなものがパワーポイントでどんと表示されると事前にイメージした。 だが、予想はあっさり覆された。セルヒオは私たちに説明するどころか、「みんなはどういう選手を育てたいのですか?」と問いかけた。彼の口から出てくるのは質問ばかりで、120人の指導者はあっけにとられた。 しかも指導の話の前に、フットボールと関係のないワークを課された。最初がスペインの歴史や社会的背景、その変遷に関する勉強だった。 「僕たちの今現在の指導方法がどこに起因しているのかを探ろう」と言われた。スペインには内戦という痛ましい歴史があったこと。独裁政権に苦しみ、いくつかの戦争を経てようやく民主主義と自由を獲得したこと。そうした時代を経て、国の団結や復興のため、即効性を優先にしてきた背景があった。 そうした現場では、与えられた指示命令、タスクを確実にこなすことが求められた。それを管理・監督する人間が必要だった。まるでフットボールの選手と指導者の関係性のように映る。 「これが古くからの指導だよね」 もっともだと感じた。その後、近代に入ると欧州統合が行われEUが現れた。スペイン人から、ヨーロッパ人としての自覚、さらに世界人へと、グローバリゼーションの渦中に自分たちがいることを自覚させられた。