音声ガイド制作者が見た成田凌主演「雨の中の慾情」 さまざま不思議なことが起きる映画を出演者自身がナレーション
どうして冷えてると分かるの?
毎回、何かしら、反省をしながら音声ガイド制作をしていますが、今回は、「冷えたシャンパン」問題がありました。全体的にセリフの少ない映画でしたので、おのずと、映像を説明しないといけない音声ガイドが多めになるのですが、逆にセリフがあるところにあまり尺(無音の部分)がない傾向もあり、苦労するところもありました。義男が病院のベッドでお守りの匂いをかぎながら寝落ちすると、義男と福子がバスタブの中にいる、というシーンに切り替わります。ここは、台本からの言葉を借りて「不思議な空間」としました。尺があれば、ツタのはう壁に囲まれた空間。真ん中にバスタブがあるという見た目を伝えたいのですが厳しかったので、「不思議な空間」というズルをしました。不思議な空間って言われても何をイメージすればいいの?とおっしゃる方がいるかなと覚悟していましたが、そもそも不思議なもので埋め尽くされた映画のせいか、そこに引っかかる人はおらず、それよりも、「ろうそくやランタンがともっている。そばに冷えたシャンパン。」と雰囲気を伝える意味も兼ねて書いたガイドに、ちょっと待った!がかかりました。どうして冷えてると分かるの?と指摘がきました。 まさに、まさに、です。冷えたシャンパンというのはイメージすべき映像を迷子にさせてしまう音声ガイドです。音声ガイド制作者の中には、この書き方を貫く方もいますが、私の場合、何を見て冷えてると判断したか、の方を書くようにしているので、初稿を提出した時に、ここは尺もないし見逃してもらえるかな?と甘えた気持ちもありました。映像としてはバスタブのそばの台の上に、バケツ型のクーラーが置いてあり、そこにシャンパンのボトルが入っていて(シャンパンという言葉にも厳密な定義がありますがここはシャンパンでOKということでした)。シャンパンがつがれた二つのグラスも置いてある。グラスに水滴が浮いていたりはしないのですが、冷えてるだろうと思う。ここは、尺との相談で、結局冷えたシャンパンという文言のままで収録しましたが、「シャンパンの入ったグラス」だけでもよかったのかも……と反省しています。また、義男が全速力で走るシーンがあるのですが、義男が腕を伸ばして走ります。気になってはいたのですが、さまざまな理由で書くのをやめました。が、成田凌さんが何かのインタビューで、義男の走り方はこうだろうと思ってあの走り方にした、というようなことをおっしゃっているのを読んで、やっぱり書いておけばよかった、とまたまた反省しました。