音声ガイド制作者が見た成田凌主演「雨の中の慾情」 さまざま不思議なことが起きる映画を出演者自身がナレーション
若い頃に、つげ義春の漫画をいくつかまとめて読んだことがありました。「雨の中の慾情」の映画ができたと聞いた時、おぼろげに、男女2人きりの短編漫画で、つげ義春作品らしいエロスと珍妙さをそなえていたことを覚えていたので、たちまち興味をかき立てられました。 【写真】第37回東京国際映画祭のレッドカーペットに登場した「雨の中の慾情」の(左から)森田剛さん、成田凌さん、中村映里子、李杏さん=東京都千代田区で2024年10月28日玉城達郎撮影 音声ガイド制作に取り掛かるにあたって、スクリーンで試写ができました。見終わった後、小さい声で「すっっばらしかったー」とつぶやきました。促音の「っ」が二つです。まるで、香水の香りの変化を楽しんだような印象が残りました。トップノートはのんきなムードの中にセクシーさが漂う香り、ミドルノートで不穏さが混ざったミステリアスな香り、ラストノートでカオスの中に切なさが香る、というような……。
これから始まる映画の行く末を示唆する
そして、いつものごとく、見たままを説明する係として音声ガイドの原稿を書きました。音声ガイドについては、連載第1回の「悪は存在しない」の冒頭部分に詳しく書いてありますので、参照してください。 音声ガイドは、目の見えない人に「答え」を教えるといった性質のものではないので、この作品を完全に理解してます!という状態では書きません。けれど、少なくとも音声ガイド原稿を書く私の主観で決めつけることだけは避けたいと思って、書き始めました。映画の冒頭のシーンというのは、これから始まる映画の行く末を示唆するものでとても大事だと思っていますが、この作品の始まりを音声ガイドでお伝えしますと 泣く女と黄金バットの絵。 タイム(ロゴマークの読み上げです) トンボを捕まえる甚兵衛姿の男の子。 法衣(ほうえ)をまとった即身仏。 赤い液体まみれのリンゴ。 全裸で野ぐそする男。 海の上で爆炎があがる。 TAICCA/MyVideo(これもロゴマーク) 暗闇へ続く線路。 穴の向こうに少年の目元。 割れたピスタチオ。 テングザルの交尾、腰を振るオス。 セディックインターナショナルのロゴ、 サルがSの字にぶら下がる(ロゴマークの説明) 水中のオタマジャクシ、 耳たぶに触れる手、 檻(おり)の中のクマを銃殺、 囚(とら)われたざんばら髪の武士、 死んだクマの濁った眼、 押し寄せる侍、 核実験の映像、爆破される建物。 暗転。 白い手書き文字でタイトル 「雨の中の慾情」 「欲」の漢字には、下に心がついている。