若い世代で脳卒中が増加、背景には何が? 予防法と早期発見のキーワードとは
増加の背景にある要因は
生存率の改善と、高齢者の有病率が落ち着いていることには明らかな理由がある。新しい薬の登場、慢性疾患の治療、そして脳卒中ケアの改善が、脳卒中の予防と生存率の上昇につながっていると、フェイギン氏とイモイシリ氏は述べている。一方、若年層の状況はより複雑だ。 「脳卒中の有病率の変化は、一般的なリスク因子である肥満や高血圧である人の割合の傾向と一致しています」と、イモイシリ氏は言う。 世界的に見て、脳卒中の最大のリスク要因は高血圧であり続けており、健康に生きられる年数が脳卒中で失われる原因の57%を占めていると「Lancet」の論文にはある。肥満や過体重が原因なのは4.7%だが、1990年に比べて1.88倍に増えている。 フェイギン氏によると、空気の汚染(室内および室外)は、世界の脳卒中の約30%の原因となっているが、1990年に比べると減っているという。逆に、気温の上昇が原因である割合は1.72倍に増えており、高血糖値や、砂糖入り飲料の消費による影響も、それに次いで増えている。 ただし、脳卒中に気温が果たす役割は単純ではない。気温は極端に高い場合だけでなく、低い場合にも問題となる。2024年4月に医学誌「Neurology」に発表された世界的な調査結果を含む最近の研究からは、低い気温は高い気温よりも脳卒中やそれによる死亡率に大きな影響を与えていることがわかっている。
脳卒中を防ぐには
これらの調査結果から得られる教訓は多岐にわたると、シュラグ氏は言う。急性期医療とリハビリテーションの進歩により、脳卒中を生き延びて長生きする人は増えている。その一方で、介護者と社会の負担が増えることにもつながる。「生存者が増えるのはよいことですが、そこには新たな課題も生じます」 予防対策はまだ十分に行われているとは言えず、今後の大きな成果が期待される。「今日の血圧を下げることが、明日の脳卒中を防ぐのです」とフェイギン氏は言う。そして、「脳卒中の大半は防げます」と付け加えた。 個人でできることとして、まずは生活習慣や家系によるリスクを理解しようと、米ニューヨークにあるノースウェル・ヘルス病院の神経科医リチャード・テメス氏は言う。 フェイギン氏によると、血圧を下げるうえで大きな効果がある対策の一つは、ナトリウム摂取量の削減(減塩)だという。超加工食品から取る塩分は、われわれの食生活で特に多い。 生活習慣の要素を一つ変えることが、波及効果を生む。「体重、高血圧、運動不足、食生活などの生活習慣に関する要素は、すべて相互に関連しています。どれか一つを選んで前向きな変化を起こせば、その影響はほかの要素にも及びます」とフェイギン氏は言う。 イモイシリ氏も同意する。「健康を管理して脳卒中リスクを減らすことが重要です」。たとえば、禁煙する、飲酒を控える、コレステロールを管理する、糖尿病などの慢性疾患を治療するといったことだ。 個人的なリスク要因を減らすのと同じくらい重要なのが、早めに発症に気づくことだと氏は言う。「医療施設に早く到着するほど、生存の可能性は高くなります」 脳卒中に気づくためのキーワード「FAST」には、顔(Face)の片側が垂れ下がる、片腕(Arm)が脱力する、言葉(Speech)がうまく出てこなかったりろれつが回らなくなったりする、という脳卒中の3つの兆候が含まれている。どれかに気づいたら、時間(Time)との闘いだ。ただちに救急に連絡してほしい。また、発症した時刻を記録しておくといい。 脳卒中の増加傾向を逆転させるために、われわれにできることはたくさんある。 「30代、40代で心臓病や脳卒中を発症する人が増えていますが、重要なのは自分が抱えているリスクを理解すること、また、それを何もせずに受け入れる必要はないのだと知ることです」とテメス氏は言う。 「われわれは、生活習慣と健康に関して積極的に行動し、自分たちの未来に影響を与えることができるのです」
文=Tara Haelle/訳=北村京子