東京五輪の無観客開催を金メダル狙う森保Jイレブンはどう受け止めたのか…「声が通る」「ホームの雰囲気が…」
ただ、無観客ゆえの難しさもあるのか、と問われた谷は「それもあると思います」と言葉を返した。コミュニケーションの取りやすさを相殺する難しさとは何なのか。 6月3日のA代表とのチャリティーマッチ(札幌ドーム)、同5日のU-24ガーナ代表との国際親善試合(ベスト電器スタジアム)で、U-24代表は無観客のなかで戦っている。対照的にJリーガーたちは上限が設けられた状況ながら、新型コロナウイルス禍による長期中断が明けた直後の昨年7月中旬から、有観客のなかでプレーしてきた。 現状でも声を出しての応援や指笛、メガホンなどの使用だけでなく、ハイタッチや肩組みなど周囲と密を作りやすい形も禁止されている。それでもスタンドにファン・サポーターがいる光景が、いいプレーをした直後に降り注ぐ拍手を選手たちの闘志や勇気に変えてきた。 質問に対して谷が同意した「難しさ」とは日本を後押しし、対戦国にはアウェイ感を募らせる光景が一変する状況を指していたはずだ。それでも「それもあると思います」と相槌を打つような形にとどめ、決して多くを語ろうとはしなかった。 同じくオンライン取材に対応した24歳のDF中山雄太(ズヴォレ)は、谷が伝えたかった思いも込めながら、無観客試合に関する質問への答えをこんな言葉で切り出した。 「このような状況下でありながら、僕たちが目指してきたオリンピック自体を開催していただける、というのをまずはすごく嬉しく思っています」 本番ではオーバーエイジ枠で招集されたDF吉田麻也(サンプドリア)に腕章を託すが、東京五輪を見すえた年代別代表が活動するときにはほとんどのケースで、東京五輪世代のなかで年長者の一人となる中山がキャプテンを務めてきた。 長くチームに携わってきた自負や経験に加えて、2020-21シーズンのオランダ・エールディヴィジが序盤を除き無観客で行われた軌跡が、個人としてだけではなく東京五輪に関わるすべての人間の思いを代弁させるように、中山にこんな言葉を続けさせた。 「サッカー選手、そしてスポーツをやっているエンターテイナーとしてお客さんの力はすごく感じます。ましてや東京での開催ですし、僕たちにとってはホームになるような雰囲気や、あるいは環境というのもすごく想像できたと思っています。なので、お客さんがいるかいないかで言えば、いて欲しいという思いが強いけれども、もちろん僕たちだけの意見で『お客さんに入って欲しい』とはすごく言いづらい。ただ、たとえ無観客になるとしても画面越しの観戦になるとしても、何かを感じてもらえるような熱い試合ができたらと僕自身は選手として思っています」 日本がグループAを突破し、金メダル獲得を目指す目標へ向かって決勝トーナメントを勝ち進んでも、準々決勝か準決勝のどちらかを首都圏で、8月7日の決勝を横浜国際総合競技場で戦う。首都圏以外で舞台となるカシマサッカースタジアムがある茨城県の大井川和彦知事も8日夜の決定を受けて、人流抑制のために午後9時以降のナイトセッションの無観客開催を発表した。 観客の存在を力に変える光景はかなわなくなったが、中山が言うように、選手たちが追い求める目標は変わらない。静岡キャンプから、ともに本大会に出場するU-24ホンジュラス代表(12日・ヨドコウ桜スタジアム)、U-24スペイン代表(17日・ノエビアスタジアム神戸)との国際親善試合をへて、本番で100%を発揮できる心技体を作り上げていく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)