仙台市が策定した「観光特化の危機管理計画」、 能登半島地震当日の和倉温泉加賀屋の取り組みから学ぶべきことは? ―観光レジリエンスサミットから
安心安全の提供はおもてなしの原点
その晩、道下氏が考えたのは「お客さまが当館に対して一番要望されることは何か」だったという。 「自分がお客様の立場なら、おそらくこの土地から一刻も早く離れたいだろう、またご家族に電話したいだろうと考えた。そこから、貴重品を含めた荷物の受け取り方法、後日精算の方法、着替え場所の確保、携帯電話の充電器の用意など、大きなことから小さなことまで項目を並べ、優先順位とそれぞれの対象をまとめて、即席のマニュアルを作って対応した」。 その後、車を持たない宿泊客を金沢まで送り届けるため、加賀屋が有する11台の車で金沢駅まで送迎することを決断。道路状況を把握するため、まずは社員を2ルートに分けて走らせ、ルートを確認した。翌日、通常の3倍の片道3時間半をかけて、宿泊客をJR金沢駅まで無事に送り届けている。 道下氏は「昨今はAI、DXとよく言うが、このような対応ができたのは、困っている人を前に、人としてどう行動するかを考え、動いてくれた社員のおかげにほかならない。安心安全の提供はおもてなしの原点であり、お客様第一主義の精神が防災の現場でも活かされた」と話す。 同時に、400人もの宿泊客をスムーズに避難誘導できたのは、被災する約1ヵ月前に火災を想定した、実戦さながらの防災訓練を実施していたことが功を奏した。「事前に火災場所を告知しない訓練だったため、予期せぬ事態に対してどのように行動すればいいか考えてもらう良い訓練になった。今回の経験を通じて感じたのは、備えあっても憂いあり、ということだ。いつ起こるかわからない災害に対して地域全体で防災に取り組んでいく体制づくりが重要ということをお伝えしたい」とまとめた。 パネルセッション全体を通じて、観光レジリエンスには日頃の防災訓練、危機管理の体制作りなどが重要であることを大前提とし、現場でより細やかな対応を生むのは、観光業界の人々が持つホスピタリティであるとの意見が挙がった。 モデレーターを務めた観光レジリエンス研究所代表の高松正人氏は、能登半島地震発生後の加賀屋の対応を称賛し、「非常時の危機管理が進み、従業員もその意識を強く持っている現場では、すでに的確な対応がなされている。行政、団体、事業者それぞれの連携が進み、こうした動きがさらに広がっていけば、観光分野での非常時の対応に対する信頼性が高まり、それが結果としてレジリエンスに繋がっていくのではないか」とまとめた。
トラベルボイス編集部