スポーツバイクの可能性を追求した、稀代のシングルスポーツ「SRX600」
技術陣、デザイナーのこだわりが生んだ稀代のシングルスポーツ
SRX600/400に搭載されたエンジンはXT600/400をベースにしたSOHC4バルブで、始動はキックスタートオンリーとなる。このエンジンはSRX600にはボア×ストローク96×84mmの608cc、400にはボア×ストローク87×67.2mmの399ccという仕様で搭載される。スペックとしてはSRX600が最高出力42PS/6500rpm、最大トルク4.9kgm/5500rpm、400は最高出力33PS/7000rpm、最大トルク3.4kgm/6000rpmを発生する。SRX600の排気量が「608cc」に設定されていたのは、当時のTT-F1クラスの排気量レギュレーションが4ストロークエンジンの場合600~750ccとされていたことに起因するという。これはヤマハの技術陣の、鈴鹿8時間耐久レースで8位に入賞したロードボンバーへの対抗心であり、オマージュだったのかもしれない。
細部にまで宿る、ヤマハのスポーツマインド
SRX250はDOHCエンジンを搭載し、セルフスターターも装備していたのに、SRX600/400がSOHCのキックオンリーとされたのは開発陣のこのバイクに対するコンセプトに対する強い思い入れによるものだとヤマハはホームページで公開している「SRX600 開発ストーリー」で語っている。SRXの600/400の開発において徹底されたのは、「必要なものにコストを惜しまず、不必要なものは絶対につけない」ということだったという。SOHCエンジンという選択は「シングルらしい図太くトルキーな走りを追求するなら、DOHCは単なるギミックだ」といい、「少しの労力を厭わないキック始動こそ男のシングル」とセルフスターターの装備が拒まれたという。 車体は角パイプのスチールフレームを使ったダブルクレードルタイプで、セミダブルクレードルタイプだったSRとは全く異なる。ここだもう一度ロードボンバーの写真を見ていただきたいのだが、ロードボンバーのフレームは丸パイプを使ってはいるがダブルクレードルタイプである。これは島氏と親交の深かった筆者の恩師である高橋矩彦氏から伝え聞いた話ではあるが、島氏はSRではなくSRXの方がイメージしていたロードボンバーの量産バージョンに近いと話していたということだ。このフレームに組み合わされる足回りは前後18インチのホイールで、リアはベーシックなツインショックを採用。ブレーキは前後ディスクで、SRX600はフロントがダブル400はシングルとされていた。 SRXの開発においてそのショートマフラーはデザイナーであるGKデザインの一条氏の強いこだわりによって採用されたというのは有名な話だが、その結果このショートマフラーはマスの集中化にも貢献している。現在のスーパースポーツの多くはこのSRXのように腹下にまとまったショートタイプのエキゾーストシステムを採用しており、SRXの開発コンセプトがいかに先進的であったかということが後に証明されたと言っても良いだろう。 1987年に大幅なマイナーチェンジが行なわれ、フロントのホイールサイズを17インチ化すると共にブレーキを大径のシングルディスクに統一。また、5速の変速比が0.806から0.791へと変更され、オーバードライブ設定に変更。さらに1988年にはラジアルタイヤが採用されるなどの変更も加えられ、完成度が高められていった。