toeが語る9年ぶりのアルバムに込めた「希望」、ポストロック最高峰バンドの現在地
歌への意識とセルフオマージュ
―山㟢さんのボーカル曲が4曲入っているのも特徴ですね。 山㟢:歌ものを聴くのが好きなので、歌ものの曲を作りたくて作ったのもあるし、あとはインストだと構成自体が作曲みたいな部分もあるので、「ギターがこうなって、次にこれが抜けて、ドラムと一緒に入って」っていう、「これ前もやったな」みたいな、結局はリフが違うだけで同じことを何回もやってるような気がしちゃって。歌ものにした方が無理して展開を作らなくていいというか、「こういう曲にしたい」みたいなのが素直にできる感じなんですよ。歌がない曲は無理やり展開を作っては「うーん」ってなったり、バシッとはまるまですごく時間がかかるので、それもあって歌が増えたのかもしれない。 ―ある意味シンガーソングライター的な雰囲気が強まっているとも言えて、歌詞にも少なからず山㟢さんのパーソナルが反映されているのかなとも思ったのですが、いかがでしょうか? 山㟢:歌メロを作るときは全部宇宙語みたいな、自分英語みたいなので作っていて、歌詞はそれにただ日本語を当てはめただけなんですよね。韻の感じが変わっちゃうと、全然しっくりこなくなっちゃうので、仮歌に近い感じの言葉を探して、当てはめていくんです。もちろん音が一緒なら何でもいいかというとそうではなくて、「こっちの言葉よりはこっちの方がいいな」っていうのは絶対何かしら選んでいるので、何となく自分の好みの方向になってるとは思うんですけど、「こういう気持ちを歌いたい」とかは1個もないんですよね。書き終わってみると、「何となくこういう意味合いになったな」とかはあるんですけど、作り始めるときに「この気持ちを歌詞にしたい」みたいに思うことはないんです。 ―去年「Mother(feat. ILL-BOSSTINO & 5lack)」が単体でリリースされていたじゃないですか?あれはパーソナルな意味合いの強い一曲なのかなと想像したりもして。 山㟢:あの曲は「Because I Hear You」のリフをサンプリングして使ってるんですけど、もともとあのリフがすごく好きで、あの曲だけで終わっちゃうのがもったいないなと思って、5lackに「一緒に曲作りませんか?」って言って。 ―「Mother」というタイトルでありテーマは誰が決めたんですか? 山㟢:5lackです。あの曲に関してはトラックも5lackが作ってるし、俺は「これで曲作ろうよ」って言って、ちょっと歌を入れて、あとは「ここに何か入れてください」みたいな話をしたくらい。曲名の『Mother』も彼の案です。 ―そういう経緯だったんですね。じゃあパーソナルな意味合いはそこまでないかもしれないですけど、歌ものでは「LONELINESS WILL SHINE」も印象的です。 山㟢:あの曲もあのギターリフがあって、そこから曲にしたんですけど、もともとは名古屋のStiff Slackが移転するときに、クラウドファンディング用に一曲作ってくれって言われて、7インチ用に作った曲で。そのときは歌は入れてなくて、いつもの感じでケツが決まってたから「これで」って感じだったけど、あのリフかっこいいのに曲としてはもうちょっと……ってずっと思ってて。なので歌を入れて、構成も変えて、最初は「Loneliness Shines」っていうタイトルだったけど、それも変えました。 ―タイトルからは「孤独の発明」(2005年作『the book about my idle plot on a vague anxiety』収録)を連想する人も多いかもですね。 山㟢:結局いろんな言い方をするだけで、言いたいことは最初のころから変わらないんだと思います。 ―「WHO KNOWS?」では“I DANCE ALONE”とも歌われています(同タイトルの曲が2003年作『songs, ideas we forgot』収録)。 山㟢:あれはオマージュ感ですね。 ―最初にサンプリングの話もありましたけど、歌詞にしろ、さっきの「Mother」のリフの話にしろ、最近はセルフサンプリングが増えてるのかも。 山㟢:たしかにそうですね。もうみんな50歳でおじいさんになってきたから、このメンバーでアルバムを作るのも今回が最後かもねっていう話をしてて(笑)。 ―いやいやいや(笑)。 山㟢:走馬灯じゃないですけど、「こういうこともやったな。これみんながいいって言ってくれたよな」みたいなのをちょっとずつ入れたアルバムなのかも(笑)。