トランプとマスクが「ケンカ別れ」するXデー、蜜月に水を差す重大リスクとは
ドナルド・トランプ氏とイーロン・マスク氏の関係が親密度を増している。一方で、マスク氏がトランプ氏をうまく使っている、あるいは操っているとの見方すらある。規制緩和で方針が一致しているようにみえる二人だが、中国を巡る見解がどう収束するかは予断を許さない。米国ファーストと関税を重視するトランプ氏。自らのビジネスの成長を重視するマスク氏。両者の関係性が、世界の政治、経済、安全保障を不安にするリスクを抱えている。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫) ● トランプとマスクが「対中」で袂を分かつ日が来る? 2025年1月20日の大統領就任を控え、トランプ氏の閣僚人事や今後の政策運営に関する情報発信が増えている。彼の発想は、とにかく米国ファーストで、中には一見して荒唐無稽に思えることもある。 これに対して、主要国の政権が警戒感を高めている一面もある。振り回されるだけではなく、トランプ氏の発想を一度、整理してみたい。 元々、トランプ氏の言動を予測することは難しい。ただ、同氏の政策運営の基準は、ビジネスマン時代につくられた「勝ち・負け」が基礎になっていそうだといえるだろう。同氏にとって、常に米国が「勝つ=利益を収める」のが最大のポイントになるのだろう。 特に、米国を追いかける中国を抑え込むことが、最大の使命とみられる。その他にも、自国の利益を優先することを狙って脱炭素を否定する、NATO(北大西洋条約機構)加盟国など同盟国に防衛費負担の引き上げを求める可能性も高い。 もう一つ気になるのが、著名企業家のイーロン・マスク氏との関係だ。さまざまな場面で二人は一緒のことがあり、関係は親密度を増しているようだ。ただ、トランプ氏とマスク氏は、単純に蜜月な関係というには語弊があるかもしれない。一部では、マスク氏がトランプ氏をうまく使っている、あるいは操っているとの見方すらある。 マスク氏は、行政効率化と歳出削減を図る組織である政府効率化省(Department of Government Efficiency、DOGE)のトップに指名された。26年7月までに、2兆ドル(約300兆円)の歳出を削減するというのが同氏の主張だ。 一方、マスク氏が創業したEV(電気自動車)メーカーのテスラにとって、中国は最重要市場である。米欧と異なり、中国ではEVシフトが加速している。米国で低価格のEV投入を断念したマスク氏にとって、中国市場の重要性は高まるだろう。 対中引き締め策を重視するトランプ氏、中国のEV需要が重要なマスク氏――どこかのタイミングで、両者の主張が食い違うことも考えられる。対中政策を巡り両者が対立し、トランプ政権の政策停滞の懸念が高まると、世界の政治、経済、安全保障にとって無視できないリスク要因になる。