トランプとマスクが「ケンカ別れ」するXデー、蜜月に水を差す重大リスクとは
● トランプ派とマスク派で米世論分断の恐れ 一部では、マスク氏が都合の良い情報をトランプ氏に吹き込み、政策立案への影響力を拡大しているとの指摘もあるようだ。また、マスク氏の利益相反への懸念もある。トランプ氏の対中政策とマスク氏の中国事業が両立するか否かは、注目に値する。 トランプ次期政権は、一段と対中強硬策を引き締めるだろう。関税の引き上げにとどまらず、半導体、AI、人権問題、中国企業の米国株式市場上場や資金調達面でも規制や制裁を発動すると予想される。 一方、マスク氏率いるテスラは、米国と中国で事業運営体制を構築している。テスラは上海で年間95万台程度(「モデル3」と「Y」の合計)を生産している。これは、カリフォルニア、テキサスそれぞれの工場を上回る規模だ。 関係を深めるトランプ氏とマスク氏だが、見解の相違とみられる出来事もあった。トランプ氏は、次期財務長官にスコット・ベッセント氏を起用すると発表した。マスク氏が推した、証券大手キャンター・フィッツジェラルドのハワード・ラトニック氏は選ばれなかった。 トランプ氏とマスク氏の見解が、常に全て一致するわけではないだろう。トランプ氏が、米国企業による中国事業の縮小・撤退を重視すると、テスラの中国事業の不透明感は高まるはずだ。また、両者の利害の違いが鮮明化すれば、トランプファン、マスクファンなどと米世論の分断が深刻化する恐れもありそうだ。 あるいは、対中強硬派の主張で追加の関税引き上げに関する議論が増え、インフレ懸念が再燃することも考えられる。その場合、トランプ政権の経済運営に齟齬(そご)が発生することも想定される。 一見すると、規制緩和などで一致しているようにみえる両者だが、中国を巡る見解がどう収束するかは予断を許さない。米国ファーストと関税を重視するトランプ氏。自らのビジネスの成長を重視するマスク氏。米大統領選挙をきっかけとする両者の接近は、世界の政治、経済、安全保障の不安定性を高める危うさを含んでいる。
真壁昭夫