国内プロ最長身…FC東京・22歳の超大型キーパー波多野豪が”完封”Jデビュー!
今シーズンはJ2のFC町田ゼルビアへ育成型期限付き移籍中の廣末は183cm。そして、3部にあたるスペインのセグンダ・ディビシオンBのエストレマドゥーラに所属する山口は188cm。そろってFC東京のアカデミーで心技体を磨いた3人のなかから、両親から授けられた才能でもあるサイズに無限の可能性が凝縮されていると信じ続けた波多野が、ついにJ1リーグの舞台に立った。 「最近は締まった試合がなかなかできなかった。荒れた展開というか、打ち合うような内容が多かったなかで、好調のセレッソ大坂に先制点を取られてしまうと非常に難しくなる。流れを少し変えたいという部分で、今日の先発を波多野にしようと決断しました」 今シーズンはすべてリザーブだった波多野を大抜擢した理由を、長谷川健太監督はこう説明した。FC東京のゴールマウスには2018年8月の鹿島アントラーズ戦から、リーグ戦で58試合続けて先発フル出場を続け、昨シーズンのベストイレブンにも選出された195cmの林彰洋が君臨していた。 日本代表にも選出された経験をもつ、33歳の林へ寄せる信頼は変わらない。それでも前述したように3試合連続で先制され、2分け1敗と白星から遠ざかっていた状況で、何かしらのカンフル剤を打つ必要があった。キックオフ前の時点で5試合続けて負けなしで、リーグ最少タイの5失点と堅守を誇るセレッソに先制されれば苦境に陥る。それでも長谷川監督は、波多野の心身の充実ぶりにかけた。 「最近のトレーニングでも、非常にコンディションがよさそうでした。年齢が近いキーパーが試合に出ていることで『自分も』という思いで、意欲的に取り組んでいたと思うので」 長谷川監督の言葉通りに、今シーズンのJ1リーグでは18歳の小畑裕馬(ベガルタ仙台)、19歳の谷晃生(湘南ベルマーレ)、20歳の梅田透吾(清水エスパルス)、そして前日8日に完封勝利の立役者になった20歳の沖悠哉(鹿島アントラーズ)と、若手キーパーが続々とデビューを果たしている。 全員が東京五輪世代であり、さらには先頭ランナーとしてすでにフル代表も経験している21歳の大迫敬介(サンフレッチェ広島)が実績を作っている。開幕前のキャンプ時の3番手から序列をひとつ上げ、林への挑戦権を手にしていた波多野は、同世代が活躍する現状を自然体で受け止めていた。 「僕自身もシーズンが始まったときからしっかりと準備をしていたし、毎日の練習でアピールしてきました。チャンスが来たらやってやるぞ、と思ってはいましたが、あの選手がどうこうというよりは、まずは林選手からポジションを奪い、FC東京のゴールを守ることだけを考えてきました」 セレッソ戦の2日前になって、GKコーチから「準備しておけ」と声をかけられた。武者震いを覚えたのは一瞬だけ。すぐに込みあげてきたのは、応援してくれたファン・サポーターへの思いだった。 「僕はずっとスクールや下部組織の一員として、長くFC東京にいさせてもらっています。インスタグラムにも『試合に出てくれ』とメッセージが届いていましたし、待っていた方々へ恩返しがしたいと思ってきました。いまは『4年間、お待たせさせてしまいました』という感じですね」 後半アディショナルタイムにはDF丸橋祐介のシュートを横っ飛びでキャッチ。すぐに起き上がると右サイドにいたFWアダイウトンへ正確なフィードを供給し、相手GKの美技に阻まれたものの、アダイウトンのクロスにFWレアンドロがヘディング弾を見舞うあわやの場面の起点を担った。 「ミスが何個かありましたし、試合には勝てませんでしたけど、個人的には無失点に抑えることができた。ただ、デビューはできましたけど、これからが大事になってくる。さらに積み上げていって上のステップへ行けるように、これからも頑張っていきたい」 シーズン途中で守護神を代える指揮官の決断に、無失点という一発回答で見事に応えた。リザーブで戦況を見守った林も刺激を受ける。ひとつしかないポジションをめぐって、ポテンシャルを解き放とうとしている波多野の咆哮が、6位につけるFC東京を最後尾から変えようとしている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)