NASAの火星探査車、クレーターの縁を登る壮大な旅へ
火星では、平地を移動するだけでも大変だ。砂まみれでほこりっぽく、岩がちで、風が強くて寒い。米航空宇宙局(NASA)の火星探査車「パーシビアランス(Perseverance:「不屈の努力」の意味)」は今、これらすべての条件に挑もうとしている。 今回の挑戦では、ジェゼロ・クレーターの縁を上まで登る。NASAは8月中旬、パーシビアランスの野心的な行程を発表した。標高差300m以上、最大23度の傾斜を登り切る計画だ。 パーシビアランスは2021年2月、ジェゼロ・クレーターに着陸。以来、クレーター内部で古代の湖や三角州を探査してきた。そして、今度はクレーターの西の縁を目指している。 プロジェクトマネージャーのアート・トンプソンは8月14日付の声明で、「パーシビアランスは4回の科学調査活動を完了し、22個の岩石コアを採取し、未舗装の地面を30km近く移動した」と説明。「今回、(クレーターの縁を目指す)クレーター・リム・キャンペーンを開始するにあたり、探査車はとても良い状態にある。クレーターの上に何があるかを見られる日を心待ちにしている」と述べた。 クレーター・リム・キャンペーンは今週中にも始まり、目的地への到達には数カ月かかる見込みだ。NASAによれば、「パーシビアランスがこれまで遭遇した中でも最も急斜面で、最も困難な地形」が待ち受けている。クレーターの頂上には、大きな科学的発見が待ち受けているかもしれない。NASAは「トゥルキーノ山」と呼ばれるエリアに関心を持っている。そこには古代の割れ目があり、大昔の熱水活動に関連があるのではないかとみられている。
もう一つの注目エリア「ウィッチ・ヘーゼル・ヒル」
もう一つの注目エリアは「ウィッチ・ヘーゼル・ヒル」だ。この丘には明るい色の岩床(表土の下の岩層)があり、パーシビアランスが最近調査した独特の岩石とよく似ている。「チェヤバ・フォールズ」と名付けられたこの岩石から採取されたサンプルには、古代の微生物の痕跡が含まれている可能性がある。ただし、解明にはさらなる調査が必要だとNASAは述べており、同じような岩石が他にも見つかれば科学者たちは大喜びするだろう。 予算の問題があるにもかかわらず、NASAはサンプルリターン・ミッションがいずれ実現するという希望を持ち続けている。ミッションの目的は、パーシビアランスが採取した岩石サンプルを地球に持ち帰り、研究室で詳しく調べることだ。 そうしなければ、「火星にはかつて微生物が生息していたか」という火星に関する最大の疑問の一つに結論は出ないかもしれない。「古代生命の痕跡」の探査を含む宇宙生物学は、パーシビアランス・ミッションの主要な目標だ。 研究者たちは、ジェゼロ・クレーターの縁で何かが発見される日を心待ちにしている。古代の地殻から岩石が見つかることを期待しているのだ。パーシビアランス・ミッションに参加し、クレーター・リム・キャンペーンを率いる科学者の一人であるハワイ大学マノア校のエレニ・ラバニスは、「これらの岩石はさまざまなプロセスで形成されており、中にはこれまで間近で調査されたことのない、ハビタブルな(水が存在し生命の生息が可能な)古代の環境があったかもしれないことを示すものもある」と話している。 パーシビアランスが目的地に無事たどり着くためには、人とロボットの知恵を結集させる必要がある。目的地までのルートは危険回避を第一に選ばれた。パーシビアランスはオートナビゲーション・プログラムを使い、移動中の判断の一部を自ら行う。急斜面を登ることになるが、NASAは30度以上の傾斜を避けようとしている。パーシビアランスは道中、一時停止して撮影や科学調査を行う。 クライマックスは、クレーターの縁に到達した瞬間だ。きっと、驚くほど素晴らしい眺めが待ち受けていることだろう。
Amanda Kooser