「ボールは友達」リアル翼くんだったからこそ本気で説く「監督は何より選手に楽しんでもらわないといけない」【中村憲剛×風間八宏対談 前編】
「100%の保持率」に本気の監督だったからこそ選手も覚悟できた
中村 風間さんがよく言っていた「ボールを失うな」。自分のボールを大事にしなさいっていうのは、僕も指導するフロンターレのアカデミーなどで選手たちに伝えるようにしています。 風間 そこはもう原点だから。フロンターレの監督になったとき、極端なことを最初にやったのは分かってる。セットプレーの練習もやらないって言ったくらい。 中村 ハッキリ言ってました。針の振り切れ方が尋常じゃないです、風間さんは(笑)。 風間 だってボールは取られないもんだって言ってるわけだから。まずそう思わないことにはっていうところだよね。 中村 僕もキャリアを積んできている以上、「100%の保持率」とか、「ボールを失わない」って言われても現実的じゃない。でも風間さんは本気でした。チームをガラッと変えようとしてくれる本気の監督についていったら、変わることができるんじゃないかって僕らも覚悟を持ていた。それに何よりやるべきことが明確でした。ボールを失った選手が、責任を持って全力で取り返しにいくとか分かりやすかった。 風間 点を取られたら、最初にボールを失ったところを指摘していたからね。ここでボールを取られなきゃ、この事象は起きなかったんだ、と。 中村 今振り返ってみると10代の選手に説明するみたいに分かりやすい言葉を使われていた気がします。だからガラッとチームが変われたんじゃないか、と。よく覚えているのが、風間さんが監督になって初めての試合のサンフレッチェ広島戦(2012年4月28日)。17本のパスをつないで1点取りました。結果は1対4で負けたゲームではありましたけど、あの1点で、これをやっていくんだなってみんなでバチッと覚悟を持てたと言いますか。その後のフロンターレのストーリーにつながってきましたよね。 風間 俺らは俺らでこういうのをやっていくよって示せただけでも俺は大満足だった。ボールを失うことなく周りもパスコースに顔を出しながらゴールを奪ったわけだから。4点取られたなら5点取ればいいだけのこと。ただ、パス17本は多いね(笑)。次第にパスを減らして失わずにいけば、もっと速く相手ゴールに迫ることができるわけだから。 中村 風間さんは練習自体短かったですね。1時間ほどで、あとは自主練でしたから。 風間 (練習が)良かったら良かったでそのままのイメージでいい。悪かったら悪かったで、これ以上長くは要らない。いずれにせよ、早く終わるほうがいい(笑)。 中村 ウォーミングアップで7対4のボール回しをやって、ゴール前の崩しをやる。それからハーフコートのゲーム形式、ペナルティーエリア幅のゲーム形式をやって、みたいな。 風間 それで十分なのよ。指導者が頭のなかでいつもゲームを想像できていればいいわけだから。それがないといくら練習で1つずつ組み立ててもゲームでは何も起こらない。それで言うと今、(南葛SCでは)練習のメニューなんてほぼゲーム形式でいい。想像できているし、見る目ができていればいいから。 中村 風間さんの言う意味、よく分かります。なんかこの感覚、久しぶりに体感できてうれしくなってきました(笑)。
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