異論を認めない企業の「調整文化」と、変化を楽しむ「挑戦文化」: その違いとは
記事のポイント①「組織風土」に起因する、企業のガバナンス不全は後を絶たない②専門家は、調整文化から「挑戦文化」に移行することが重要だと指摘した③異論を認めない調整文化と変化を楽しむ挑戦文化の違いは何か
「組織風土」に起因する、企業のガバナンス不全は後を絶たない。組織風土改革の専門家は、調整文化から脱却し、「挑戦文化」に移行することが重要だと語った。異論を認めない調整文化と変化を楽しむ挑戦文化の違いは何か、組織改革の専門家スコラ・コンサルト(東京・品川)の簑原麻穂社長に聞いた。(オルタナ副編集長=池田 真隆) ◆ 現代の急速な変化の中で、多くの日本企業は長い歴史に育まれた価値観や考え方を見直し、自らの企業文化を再考する時期に差し掛かっています。 特に、価値観の多様化や世代間のギャップが大きくなり、過去の成功体験だけでは通用しない新しい時代の到来を感じています。企業文化とは、その会社独特の価値観や考え方、行動様式を指し、仕事の仕方やマネジメント、判断基準、そしてコミュニケーションスタイルなどに表れます。 しかし、この文化は内側からは見えにくく、無自覚なままでいることが多いのです。今こそ経営者は自らその必要性を認識し、変革を推進する強い意志を持つ必要があります。これこそが、次世代へのバトンをしっかりと渡すための大きなカギとなるのです。 ■社員が違和感を声に出しても認められない 多くの日本企業が直面している本質的な課題として「調整文化」がよく取り上げられます。この文化は、組織の安定を最優先し、混乱を避けるための価値観に根ざしています。 調整文化のもとでは、序列や役職、年功といった階層的な構造が重視され、決められたルールや上司の指示に従って動くことで組織全体の安定が保たれます。 その結果、前例踏襲主義に捉われ、社員はその「枠」に縛られてしまい、新しいアイデアや挑戦が生まれにくくなります。そして、問題や違和感を声に出したとしても異論が認められないため、社員は思考停止に陥り、結果的に不祥事が起きるなど生産性の低下をまねきます。 ■「役員の心理的安全性」も担保する 一方で、これからの日本企業が目指すべきは「挑戦文化」です。挑戦文化の価値観は、「変化するのが当たり前」という現実的な認識に基づき、経営が目指す姿を明確にし、社員が自らの意思で試行錯誤しながら目標に挑戦することを重視します。 社員が自発的な意思で試行錯誤を繰り返すことで、組織全体の思考行動様式が変わり変化への対応力が向上、結果的に企業の成長スピードが速くなるのです。 挑戦文化への第一歩として、まず「役員チーム」が当事者となり変革を推進することが求められます。役員が旧態依然とした価値観で動き、チームとして機能せず、自部門の利益だけを追求する状態では全社的な変革は進められません。 さらに、役員同士であっても「心理的安全性」をしっかりと担保し、本音で話せる環境をつくることが大切です。 役員同士が自分たちの会社全体の未来について腹を割って率直に意見を交わせる姿は、社員にも本気であることが伝わり、自分たちも挑戦してみようという主体性の喚起や行動を促進します。 ■利益追求を最終目的に置いてはいけない 挑戦文化で大切なことは、社員一人ひとりが経営課題に対する当事者意識を持ち、自ら考えて行動することです。これにより、組織全体の生産性や意思決定のスピードが向上します。 しかし、調整文化から脱却し、挑戦文化を根付かせることは容易ではありません。変革には時間と労力が必要ですが、それは企業の持続的成長に不可欠な要素です。 現在の企業経営においては、企業の利益だけが最終目的ではなく、人々が仕事を通じて豊かに成長し、働く人々が幸せになる、より良い社会を創出することが求められています。 企業が挑戦文化を育むことは、次の世代により良い社会を残していくためにも極めて重要です。 これからはお互いを尊重し、多様性が生きる組織を作るためにも、違いや変化を楽しむことができる挑戦文化づくりがますます求められるでしょう。 これにより、柔軟でクリエイティブな企業環境が生まれ、新しい価値を創出する組織力が高まります。挑戦文化とは、社員一人ひとりが自分の役割を再定義し続け、自らの可能性を最大限に引き出すための基盤でもあり、それが企業全体の持続的成長を支える力となるのです。(談)