家電のパナソニックがeコマースで「野菜」から「旅」まで売ることになった事情
この間、ニーズが少なく、コストが合わないことから宅配での受け渡しをやめる一方、市内の各地に受け取りスポットを開設し、ユーザー自らが商品を取りに行くスタイルに変更した。顧客が自ら商品を取りに行くことで、ユーザーは配送料を払わなくて済む。受け取りスポットとなるコワーキングスペースやホテルなどは、新たな集客も期待できる。 ■地元農家には配送の手間がないのが魅力 地元の農家など、加盟店の開拓にも力を入れている。地元の農家にとって、どんなメリットがあるのか。
藤沢市で有機農業を営む「にこにこ農園」の井上宏輝さんは、これまで得意先の飲食店や個人宅に取れたての野菜をトラックに積んで届けてきた。夕方までに農作業を終えた後、一通りの配送を終えると自宅に戻るのは午後9時頃にもなるという。47歳の井上さんは、「だんだん体力的にも厳しくなってきている」と打ち明ける。 「『ハックツ!』の場合、配送を担ってもらえるのでとても助かる」と、井上さんは評価する。これまで井上さんは、キクイモ掘りなど農作業体験イベントにも積極的に協力し、「ハックツ!」の認知度向上にも一役買ってきた。
他方で「ある程度、安定した注文がないと厳しい」と課題も指摘する。現時点では、「ハックツ!」の受け渡しは週1回の金曜日。にこにこ農園にも、毎週確実に注文が入るわけでもない。 「有機農業の特性からも、お客さんにはいいときも悪いときも継続的にお付き合いしてもらえることを望んでいる。有機農業の特性やその難しさなど、生産者と消費者のお互いが理解を深めることがなければ、真の意味での関係性の構築は難しいのではないか」(井上さん)
この点ではまだまだ踏み込みが足りないとも言える。 とはいえ、関係作りは少しずつ進んでいる。課題だった商品の仕分け作業では、新たに地元の担い手が現れた。 当初はパナソニックHDの社員が仕分け作業に従事していたが、藤沢市内の社会福祉法人「藤沢育成会」が運営する障害者の就労支援事業所「みらい社」が業務を引き受けた。2024年4月以降、毎週金曜日の午後1時から2時にかけて、各ユーザーの注文ごとに3~4人のスタッフが商品を仕分けし、袋詰め作業をしている。藤沢育成会は、前出の三浦さんが、パナソニックHDに紹介した。