家電のパナソニックがeコマースで「野菜」から「旅」まで売ることになった事情
「ハックツ!」は、ほかの社内ベンチャー事業とも毛色が違っている。 モビリティ事業戦略室では、遠隔監視による自律走行ロボットの実証事業や、商用EV(電気自動車)向けフリートマネジメントシステムの合弁設立などをすでに発表している。これらはパナソニックグループの技術やノウハウを活用し、比較的早期のビジネス展開を目指している。 対して「ハックツ!」では他社のソフトウェアシステムを採用。現時点で取り扱っている商品は地元産の農産物や加工食品などが主体だ。いったいなぜ、パナソニックHDはあえて畑違いの新ビジネスを始めたのか。
■2040年を見据え、バックキャスティング 「ハックツ!」を所管する村瀬恭通・パナソニックHDモビリティソリューションズ担当参与は次のように語る。 「2040年の日本では、人口減少や少子高齢化がさらに進む一方、地域での人のつながりを基軸とした『ウェルビーイング』が求められる。そうした2040年の社会を想定し、そこからバックキャスティング(「さかのぼる」「逆算」の意味)して新たにビジネスを構築していく必要があると考えた。『ハックツ!』もその一つだ」
モビリティ事業戦略室では、「人の生活圏イコールlast10マイル(半径約16キロメートル)」というコンセプトを設定。「モビリティソリューションを通じて人やコミュニティを元気にしたい。2040年にありたい社会を想い描き、そこでのキーワードとしての地産地消を実現するために新たなビジネスを構築する」と、村瀬氏は意気込む。 ただ、やっていることは泥臭く、試行錯誤の連続だ。 2024年6月中旬時点での「ハックツ!」の登録ユーザー数は約1070人、加盟店数は27と、着実に増えている。商品の受け取りスポットも6月に江の島島内など新たに市内4カ所が加わり、現在、7カ所となっている。
現在、「ハックツ!」に専属でかかわるパナソニックHDの社員は4人。現場で指揮を執るモビリティ事業戦略室主査の芦澤慶之氏によれば、「サービス開始当初は、パンなど加工品の販売が中心だったが、最近は地元産野菜も徐々に売れ始めている」という。 その芦澤氏は「1年目は地元産野菜をどうやって売ればいいかということばかり考えていた。その難しさを痛感した1年だった」と打ち明ける。ロボットによる配送など奇抜な取り組みも試みたが、その利用者はごくわずかにとどまった。