ノーベル文学賞作家とBTSをつなぐ消せない歴史
政府のブラックリストにも
ノーベル文学賞の選考委員であるアンナ・カリン・パーム(Anna-Karin Palm)はハン・ガンの作品の中で特に何を推薦するかという質問に対して、小説『少年が来る』(邦訳・クオン)を挙げている。同委員は「1980年代の光州民主化運動に関する感動的でありながら悲惨なストーリー」とし、「トラウマがいかにして世代を超えて継続されるのか描いた、歴史的事実と絡めた作品」だと評した。 実はハン・ガンは、同小説などを理由に、朴槿恵(パク・クネ)政権時(2013年~17年)に、文化芸能人ブラックリストに掲載されていたことがわかっている。朴槿恵政権では保守政権に反対の立場をとったとされる文化人らをリスト化し、政府の文化支援事業の選定の際に、リストに載った文化人は対象から外すよう指示されていたという。 軍事政権に反対する光州運動の姿を描いた『少年が来る』は、朴槿恵保守政権にとって不都合なものだったのだ。 現在、韓国中が受賞のお祝いムードに沸いているが、この「国が誇る」ノーベル賞作家は、ほんの数年前には当局から危険視されていたわけだ。こうした矛盾の共存は民主主義が実現されながらも、負の歴史を断ち切れていない韓国の現代社会を如実に表している。 (光州民主化運動とは、1980年5月18日、韓国の南西部にある全羅南道光州市で、軍事政権に反対し政治の民主化を求めた光州の学生や市民によるデモ行動。その際、デモ制圧のために投入された兵士らの銃弾によって犠牲となった死亡者は、光州記念財団によると、およそ150人で、負傷者は数千人に上るとされる) ■もう一人の受賞者 これまで韓国でノーベル賞を受賞したのは、ハン・ガンを含めると2人。もう一人は故金大中(キム・デジュン)元大統領だ。 金大中は、韓国における民主主義と朝鮮半島の平和の実現のための功労者として、平和賞を受賞している。 朴槿恵元大統領の父親である朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領や全斗煥(チョン・ドゥファン)元大統領による軍事政権から命の危険にさらされる弾圧を受けながら、民主化実現のために政治活動を続け、大統領になり平和賞を受賞した金大中のストーリーと、ハン・ガンの作品は、歴史を見つめるまなざしという意味において地続きと言えるだろう。